大腸癌肝転移において、IGF機構の活性化は重要で、MMP-7は、IGF-IGFBP複合体を分解し、bioactive IGFを遊離させ、IGF機構を活性化させる主要な分子として報告されている。これまでに、ヒト大腸癌細胞株HT29を用いた肝転移モデルでは、転移巣の増大に伴う血中bioactive IGFの経時的な上昇が確認され、MMP-7はIGF中和療法対象選択のためのバイオマーカーになり得ると考えられた。しかし、HT29モデル免疫不全マウスの血中MMP-7をウェスタンブロットで確認すると、不活性型pro-formしか検出できず、in situ Zymographyでも、ヒトと比較して免疫不全マウスの肝転移巣ではMMP-7の活性化がほとんどみられなかった。免疫不全マウスでは、癌間質相互作用が起きにくく、転移巣局所でのMMP-7活性化が起こらないことが示唆された。そこで、ヒトproMMP-7を導入したマウス大腸癌株を用いて野生型マウスモデルを作成したが、血中にはpro-formのMMP-7しか検出されず、肝転移も増大せず、IGF中和治療の効果もみられなかった。これらの結果から、ヒトとマウスのMMP-7の分子構造に大きな差異はないはずだが、マウスの微小環境下ではヒトMMP-7は活性化できないとの結論に至った。癌転移機構には局所の微小環境が極めて重要で、生理的な癌間質相互作用が必須であり、ヒトの病態と同様の最も生理的なモデルによる検証の必要性が確認された。全身のIGF機構は厳密に制御され、通常、血中bioactive IGFは極めて低濃度で維持されている。さらに、IGF機構を活性化させるMMP-7の活性化機構もまた厳密に制御されていると考えられた。今後は、マウスMMP-7(不活性型と、活性型)を導入したマウス細胞株を用いた野生型マウスモデルを作成し、肝転移実験を予定している。
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