研究課題/領域番号 |
17K09381
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮本 心一 京都大学, 医学研究科, 講師 (90378761)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / インスリン様増殖因子 / 大腸癌 / マトリックスメタロプロテアーゼ-7 / 癌微小環境 |
研究実績の概要 |
インスリン様増殖因子(Insulin-like Growth Factor,IGF)は血清中では生理的な阻害分子であるIGF結合蛋白質(IGF binding protein, IGFBP)と結合して大部分が非活性型(IGF-IGFBP複合体)として存在する。IGFが生物学的作用を発揮するためにはプロテアーゼによるIGFBPの分解が必須である。われわれはMatrix Metalloprotease(MMP)-7が6種類のIGFBPすべてを分解する酵素活性を持つことを見出した。さらに家族性大腸腺腫症のモデルマウス(ApcMinマウス)とMMP-7のノックアウトマウスをかけ合わせると大腸ポリープの発生が抑制されることから、MMP-7が腫瘍微小環境内のIGFを活性化し、主に抗アポトーシス作用により腫瘍発生に寄与すると考えられた。さらにわれわれはApcMinマウスにIGF中和抗体を投与するとポリープの発生が抑制されることも報告している(Mol Cancer Ther 2010)。一方、癌の根治を目指すには癌幹細胞を排除することが重要であり、癌幹細胞性を維持するために必要な生存シグナルの同定は癌幹細胞を標的とする治療開発に必須である。血清中のIGFが高いことが大腸癌のリスクになることや脳下垂体から成長ホルモンが過剰分泌され末梢組織でのIGF-1が増加する先端肥大症患者で大腸癌が多いことは、ヒトの大腸発癌においてもIGFが関わっていることを強く示唆する。1つの可能性としてわれわれはIGFシグナルが癌幹細胞性の維持に重要なシグナルであると想定した。そこでApcMinマウスで同定されたDclk-1陽性大腸腫瘍幹細胞に着目し、腫瘍幹細胞周囲の微小環境におけるIGFシグナルの重要性を証明し、大腸腫瘍幹細胞を標的とした新たな治療法の開発を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
われわれはApcMinマウスの腺腫から腫瘍オルガノイドを樹立した。大腸腫瘍幹細胞におけるIGFシグナルの活性化を見るために、腫瘍オルガノイドおよびヒト大腸癌組織においてDclk-1、MMP-7、IGF type1 受容体(IGF-1R)の免疫染色を行った。両組織においてDclk-1陽性細胞とMMP-7陽性細胞の局在はまったく異なっており、少なくともMMP-7はDclk-1陽性細胞からは分泌されていないことが明らかになった。正常腸管上皮において、パネート細胞はMMP-7陽性となりLgr5陽性幹細胞に接して存在し、wnt3を分泌することにより幹細胞ニッシェを構成していることが知られている。パネート細胞由来のMMP-7がIGFBPプロテアーゼ活性を持つことを考えれば、幹細胞ニッシェにおいて活性化されたIGFが幹細胞性維持に何らかの役割を持つことが想定される。一方、腫瘍においては腫瘍自体が分泌するMMP-7が腫瘍微小環境においてIGFを活性化し、paracrine的にDclk-1陽性細胞に作用し、腫瘍幹細胞性の維持に寄与している可能性を考えている。しかしながらオルガノイドの培養には必ずしも血清(IGF-IGFBP複合体が含まれる)を必要とせず、またMMP-7は不活性型の前駆体で分泌され、その活性化には間質細胞から分泌される他のプロテアーゼによる限定分解が必要である。オルガノイドの系も含めin vitroの系では 間質細胞を含まず、分泌されたMMP-7の活性化を評価できない。そのため、生体内での腫瘍幹細胞ニッシェにおけるMMP-7の活性化ひいてはIGFシグナルの活性化をin vitroの系で評価するには限界がある。以上より当初の研究計画の遂行はかなり難しい状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍オルガノイドは継代を重ねるにつれ、 Dclk-1陽性細胞が減少していくことも問題であり、培養系にIGF(±IGF中和抗体)、活性型MMP-7、MMP阻害剤などを添加し、Dclk-1陽性細胞の数やオルガノイドの形態にどのような変化が起こるかを検討する予定である。Exogenousに加えたIGFにより、オルガノイド内のDclk-1陽性細胞の数を維持することができれば、少なくともIGFが腫瘍幹細胞の維持に寄与しうることが証明できる。しかしながら上記の理由により、生体内における腫瘍の微小環境におけるIGFのMMP-7による活性化をin vitroで再現することは困難である。 同時並行している以前から継続中のIGF中和抗体による肝転移の抑制実験がある程度結果が出つつあるため、最終年はそちらに研究計画をシフトすることも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の実験計画が遅れていることに加え、特別な機器や試薬を必要としない実験のため次年度使用への繰り越し助成金が生じた。今年は最終年度でもあり、遅れた実験計画を少しでも進めるのと同時に、これまで継続してきたIGF中和抗体療法の開発を並行して行い、健全な助成金の執行にあたる。
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