炎症性腸疾患(IBD)は原因不明の難病である。その病態に炎症を負に制御する制御性B細胞(Breg)の関与が報告されているがいまだ不明な点も多い。そこで本研究は、腸内細菌による腸管Breg誘導の分子メカニズムと、Bregを介したIBD病態の解析を目的に計画された。 平成29年度は腸管B細胞のToll like receptor(TLR)発現と腸炎抑制効果の検討のためのin vitro実験、平成30年度は各種遺伝子欠損マウスを用いて主にin vivo実験を行った。平成30年/令和1年度はそれらを発展させる形で研究を継続した。 結果の概要だが、研究開始当初はTLR9欠損B細胞は細菌刺激による制御性サイトカインIL-10の産生量は低い傾向にあった。しかし、その後サンプル数を増やして検討したところ、正常のIL-10産生能を有しており、野生型B細胞と同様にin vivoでT細胞移入腸炎を抑制した。一方、TLR2欠損B細胞は細菌刺激によるIL-10産生能が低下しており、その移入を行っても腸炎抑制効果を認めず、B細胞の腸炎抑制効果はTLR2刺激が重要であると考えられた。これらの知見は、米国ノースカロライナ大学留学中の研究で得た結果をサポートするものであり、TLR2依存的にIL-10産生が抑えられるメカニズム解析を進めていった。その中でB細胞においてはPI3Kp110dのシグナル伝達がTLR2依存性IL-10産生に重要であることを発見し、その結果の一部はJCI誌とCells誌にそれぞれ報告した。IBD患者のB細胞を用いる検討は、詳細な解析を行うにはサンプル数が十分でなく、今後の課題と考えている。 今後もBregがIBDの病態にどのように関わっているのかの検討を進め、最終的には、生体内での特異的細菌刺激によるBreg誘導を介して、安全で効果的なIBD治療法開発につなげたいと考える。
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