研究課題/領域番号 |
17K09383
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川島 耕作 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 講師 (10609267)
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研究分担者 |
石原 俊治 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (80263531)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MFG-E8 / 制御性B細胞(Breg) / 腫瘍免疫 / 大腸癌治療 |
研究実績の概要 |
私共のこれまでの研究で、MFG-E8による腸管の炎症抑制機序は、①アポトーシス細胞の貪食を促進、②マクロファージに直接働き細胞内シグナル調節を介する炎症性サイトカイン産生を抑制、であることを明らかにしてきた。一方で、免疫抑制性B細胞サブセットである制御性B 細胞(Breg)がMFG-E8の機能とリンクして腸管免疫を負に制御することが明らかとなった。この結果を踏まえて、MFG-E8がBregのMFG-発生や機能を制御し、腫瘍免疫にも関わる可能性を推測し実験計画を立て研究を進めている。最初に、MFG-E8がBregの発生や分化に影響を与える可能性を考え、MFG-E8欠損マウスにおけるBreg機能を解析し、以後は、大腸癌の発生・進展過程を継時的に追うことができるマウス発癌モデルを作成することを目指した。本研究の継続と成果によって、MFG-E8 あるいはBreg を標的とした新規の大腸癌治療法開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Bregの機能や活性化にMFG-E8が関連している可能性を踏まえ、MFG-E8 KOマウスを用いた検討を継続している。MFG-E8 KO マウス(C57BL/6 background)は、動物実験専門委員会の許可、DNA 組み 換え実験の許可を得て、理化学研究所を通じて既に入手済みであり、これまでも他の実験に用いており、繁殖や飼育を継続してマウスを維持している。 KOおよび野生型(WT)マウスから脾臓と腸間膜リンパ節(MLN)を摘出し、FACSによってBreg分画(CD1dhiCD19hi)の解析をおこない、Bregの発生や分化について両マウス間で比較suruto、KOマウスの脾臓とMLNでBregの総数はWTに比べて少なかった。さらに、両マウスの脾臓とMLNから分離したB細胞を培養し CpG DNAで刺激後のIL-10 産生を FACS と EIA で評価 した。本実験では、KOマウスのB細胞においてBregに特徴的なIL-10産生が低下することが明らかとなった。これらの研究成果はBregの発生や分化において、MRG-E8が重要な役割を果たすことを示唆する新知見である。 これまでの結果から、MFG-E8の欠損がB細胞のBregへの分化や誘導を低下させることが示唆され、このことは、BregのIL-10産生を介した腫瘍免疫制御にも影響を与える可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
散発性大腸癌と炎症性大腸癌(colitis-associated cancer: CAC)の発癌機構にMFG-E8が関わることは、私共の以前の研究で明らかとなっている(Kusunoki R, Ishihara S, et al. J Gastroenterol, 2015)。しかし、MFG-E8がどのように発癌や癌増殖に関わるかは明らかになっていない。特に腫瘍免疫との関連は全く解明されていない。今後は、近年本邦において患者数が急増している炎症性腸疾患に着目し、炎症性発癌におけるMFG-E8の関与、特にMFG-E8を介したBregの制御が どのように腫瘍免疫に関与するのかを明らかにする。 CAAモデルについては既報に基づいて作成する。WTおよびMFG-E8 KO に対して、AOM(1mg/kg)と1.5-2.5% DSS の反復投与により炎症性大腸癌モデル(①)、大腸を摘出後にホルマリン固定 し、形成された腫瘍をメチレンブルーで染色した標本で腫瘍の個数および大きさを評価する。 続いて、CAC発生過程におけるMFG-E8の腫瘍免疫への関与に関する検討をおこなう。 Rag2マウスとKOあるいはWTと交配させたマウスを樹立する(A. Rag2 x WT 、B. Rag2 x MFG-E8 KO)。樹立したマウスにCACモデルを作成し、腫瘍発生を評価する。T、B、NKT細胞を欠失したRag2マウスを用いることで、MFG-E8およびBregが個体の腫瘍免疫抑制を介して腫瘍発生に関わることが検証できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
MFG-E8マウスの繁殖が停滞し、マウスからin vitro実験に供給する細胞が十分でなく、in vitro実験について予想以上に時間を費やした。同様にCACモデル作成にも影響があった。以上のことから、平成30年~令和元年度についてもin vitroの実験が中心となり、経費の多くは、細胞分離や培養系、各種抗体などの消耗品に用いた。したがって、令和2年度には、CACモデル作成およびその免疫学的背景を詳細に検討する予定とし、実験費用を次年度へ繰り越すこととなった。
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