大腸発がんでは、ヒストン修飾やDNAメチル化異常などのエピゲノム異常が重要な役割を果たす。しかし大腸発がん過程におけるエンハンサーの役割には不明な点が多い。大腸がん細胞においてヒストンH3リジン27のアセチル化(H3K27ac)とDNAメチル化によるbivalentな修飾が、スーパーエンハンサーの活性化に必要であることが報告された。本研究では大腸がん、前がん病変および背景正常大腸の臨床検体を解析することで、大腸発がんに重要なエンハンサー領域を同定し、そのエピゲノム異常を明らかにすることを目的とした。 大腸がん高リスク群として大腸鋸歯状病変が多発するSerrated polyposis syndrome (SPS)が知られており、SPS症例は5年間のフォローアップ期間中に約35%が大腸がんを発症すると報告されている。さらにSPS診断基準を満たさないが、鋸歯状病変を有する症例もまた大腸がんリスクが高いと報告されており、鋸歯状病変の存在は大腸がんリスクと強く相関することを示している。 我々は多発鋸歯状病変の背景大腸粘膜に、腫瘍発生の素地となる分子異常が存在するという仮説を立て、エピゲノム解析を行った。これまでに背景正常大腸粘膜におけるヒストンH3K27トリメチル化(H3K27me3)が大腸腫瘍のDNAメチル化異常のpre-markとなっており、大腸がん発がんリスクを予測する分子マーカーとなり得ることを報告していた。そして今回新たに多発鋸歯状病変症例の腫瘍組織と背景粘膜で高メチル化を示すエンハンサー領域を同定し、さらにこのエンハンサー領域は、がん遺伝子の発現に関与することを見出した。
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