研究課題
粘液の細胞保護機能は、水分子を含んでこそ発揮されるものであるが、局所環境の変化によって、粘液成分の構成やバランスも共に変動し、それが、気質または病態に影響するといっても過言ではない。そこで、本課題は特に、ムチンと水チャネルの関連性に焦点を当て、消化器疾患における水分子の位置付けを明らかにするものである。初年度は特に、腸管部位依存的なアクアポリン(AQP)サブタイプの同定を重点的に行った。アクアポリンは、細胞膜に存在する水輸送タンパク質で全身に分布している。現在、サブタイプとしてAQP11まで同定されており、腸管ではAQP3,9の発現が高いとの報告があり、ムチン安定的産生のために行う絶食処理がこのサブタイプに影響するかについて検証した。正常マウス(BALB/c)および16時間絶食(自由飲水)マウス胃・小腸・大腸を部位別に採取し、totalRNA抽出からcDNA合成を行いリアルタイムPCR法により、各種AQP発現量をmRNA発現を測定した。まず、AQP9のmRNA発現を比較検討したところ、正常マウスでは、胃、小腸、大腸のどの部位においても発現量は同程度であり、16時間絶食誘導でもほとんど変化しなかった。一方、AQP3発現は、正常マウスにおいて胃で最も高く、大腸で最も低かった。さらに絶食させた場合においてもその部位別発現傾向は変化しないももの、その発現は、正常マウスに比べ、5倍~数十倍の発現上昇を認めた。これより、自由飲水状態にも関わらず、絶食刺激により、AQP3を介する水分子の流入が顕著に上昇するものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
絶食マウスの消化管変化が比較的安定であったため、データの精査が順調に進行したためであると考えている。
初年度の進行により、アクアポリンのサブタイプ別発現傾向が遺伝子発現レベルで明らかになったため、AQPサブタイプの局在およびタンパク質レベルでの発現増減を、免疫組織化学染色法、ウエスタンブロッティング法にて検討する。また、変化のなかったサブタイプにおいても、絶食の経時的変化を追跡した場合どうなるかという視点で実験を組み立てる。もし、絶食数時間で変化が見られた場合は、AQPサブタイプのリレー的要素を解明できると考えている。
(理由)実験動物絶食モデル作成が順調に進行したこと、また、遺伝子発現解析に用いたサンプルを最低限に抑えたため、使用した酵素等の試薬量が節約できた事によるものである。(使用計画)今後は経時的変化を追跡する予定であり、初年度の結果から、さらに細かい時間設定をする必要が生じたため、その予算に充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
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