本研究課題において、世界的に患者数が増加し続けている炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の疾患感受性遺伝子Nkx2.3の遺伝子機能を明らかにし、新規治療法開発へ繋がるような研究を目標とした。2017年度に、Nkx2.3遺伝子領域をencodeするNkx2.3 BAC cloneを過剰発現させたNkx2.3 transgenic mice (Nkx2.3 Tg)を用い、代表的なマウス腸炎モデルであるDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)腸炎を誘導した。2018年度もこのマウスを用いDSS腸炎を誘導し、Nkx2.3 Tgマウスがコントロールマウスより重症化することが確認できた。よってNkx2.3の過剰状態は腸管炎症のリスク因子となりうるという仮説が立てられた。次に細胞株を用い、Nkx2.3発現ベクターをトランスフェクションにて過剰発現させ、接着分子やサイトカインの発現を評価した。Nkx2.3を過剰発現した細胞株では、コントロールと比べE-selectinやVCAM1やIL-8が発現亢進していた。MAdCAM1に関してはNKX2.3が転写因子としてMAdCAM1のプロモーター領域と結合しMAdCAM1の転写活性を上げることを示唆する論文があるが、我々の実験系ではNkx2.3の過剰発現によりMAdCAM1が発現亢進すると結論することはできなかった。しかしながらE-selectinやVCAM1やIL-8の発現が上昇していたことから、炎症性腸疾患の病態においてNKX2.3は炎症を惹起する分子の1つで、活性を阻害することで将来的な新規治療法につながる可能性があることが示唆された。
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