研究実績の概要 |
2021年度は前年度課題となった質量分析計 (MS) のイオンモビリティ部分の調整を行ったうえで、これまでに構築してきた測定系を用いノンターゲット法による HBV 感染細胞で変動する新奇脂質の探索を行った。サンプルは、キメラマウス由来ヒト化肝細胞へ HBV を感染させた 2, 5 日後の細胞 (HBV d2, HBV d5) と、その対照として未感染で培養した細胞の脂質抽出物を用いた。液体クロマトグラフィーで分離しMS (Vion IMS Q-Tof) の negative または positive ion mode, HDMSe で分析し、Progenesis QI と EZinfoのソフトウェアにて HBV 感染により変動する分子を探索し、UNIFI にて詳細解析を行った。主成分分析 (PCA) を negative ion mode のデータで解析し、特徴的な 14 ピークを見出した。このうちm/z 400-500の 5 ピークの 1 種はこれまでの分析でも変動が認められたリゾリン脂質であった。残り 4 種について組成解析し探索した結果、これまで測定対象外のステロールや脂溶性ビタミン関連を含む数十の構造異性体が候補として示された。そのうち酸素原子を3つ含有する分子群で HBV 感染による増加傾向が、酸素原子を5つ含有する分子で HBV 感染による減少傾向が示唆された。この結果はHBV 感染による水酸化酵素の活性への影響を示しているのかもしれない。positive ion mode のデータでは PCA での分離が不十分で解析困難であった。そこで Progenesis QI で HBV d2, HBV d5 両者で変動する分子を探索し 19 ピークが抽出された。本研究で見つかったこれらの候補分子はHBV感染により変動する新奇脂溶性分子の可能性がある。
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