研究課題
研究代表者らは、HBV持続感染に関わる自然免疫応答回避機構や発癌、あるいはgenotypeによる臨床病態の差異に関わる分子機構を明らかにすることを目的として研究を遂行し、以下の実績を得た。1. HBV持続感染に関わるHBVの自然免疫応答回避機構の解明:前回までの検討で、HBVの発現により一部のISGの発現が変化することが明らかとなったことを受け、既報で同定されているB型肝炎患者由来肝細胞で発現変動を認めるISG数種類の遺伝子発現についても追加で検証を行ったが、HBV発現により発現が抑制される遺伝子は明らかでなかった。次に、蛋白リン酸化への影響を検討するために、自然免疫応答以外の経路に関わる分子も含め、Hep2.2.15.7細胞やHBV強制発現肝癌細胞株等を用い網羅的なリン酸化アレイを行った。その結果、PRAS40, GSK3βのリン酸化がHBV発現時に抑制されている事が示唆された。2. HBV起因肝癌における分子機構の解析:予備実験として、HBV非感染肝癌症例2例について癌部・非癌部におけるSTINGのmRNA発現、およびSTINGが関わるシグナル経路の別の分子のmRNA発現を解析した。いずれの症例についても、STINGのmRNAは非癌部で発現低下しており、またSTINGの下流分子の一つと考えられているTBK1の発現も癌部で低下していた。一方で、IKKεの発現は癌部で増加していることが明らかとなった。3. HBVのgenotype間による慢性化率や発癌率の差を規定する機構の解明:1の解析(ISG発現解析、リン酸化アレイ)を異なるgenotypeのHBVを導入した場合で比較したが、genotype間による明らかな差は見出されなかった。しかし、IFN投与時におけるISG発現の比較では、IFN投与によって誘導されたCXCL10のmRNA発現がHBV発現により抑制され、genotype CのHBVでは抑制の程度が弱いことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
1. HBVの持続感染およびgenotype間による臨床病態の差異に関わるメカニズムの解明、については、概ね当初の計画通りに進めることができた。一部計画通りに進められなかった部分についても解析の対象を広げ一定の成果が得られたと考える。すなわち、前回までの検討で明らかとなった、HBV発現時に発現変化が認められるISG以外に新たに同様の変化を認める分子を同定し、また、自然免疫関連分子以外の分子にも解析対象を広げることにより、HBV発現時にリン酸化に変化を認める可能性のある分子を同定した。この結果を更に追究していくことにより、直接的な自然免疫経路以外のシグナル経路がHBV持続感染やIFN応答性に関わるという新しいメカニズムを明らかにできる可能性があると考えられた。2. HBV起因肝癌に関わる分子機構の解析に関しては、当初の予定通り臨床検体の解析に着手し、予備実験として非HBV感染症例における癌部・非癌部におけるSTINGを中心とした遺伝子発現の比較を行うことができた。興味深いことに、STINGおよびTBK1のmRNA発現量が癌部と非癌部で異なるだけでなく、TBK1と類似した機能を持つIKKεの発現パターンと異なっている事が明らかとなった。今後この発現パターンの違いについて更に解析を進めていくこと、またHBV感染肝癌症例で同様の検討を行い比較することにより、新たなHBV発癌メカニズムを明らかにするための知見を得ることができると考えられる。以上のように、研究計画はおおむね順調に進展しているものと思われる。
1. HBVの持続感染およびgenotype間による臨床病態の差異に関わるメカニズムの解明:これまでの検討で明らかとなった、HBV発現により発現量が変化するISGについては当初の予定通り、正常機能を有するヒトiPS細胞を用いてこの結果を検証していく。また、今回新たにHBV発現によりリン酸化に変化が生じることが示唆されたPRAS40やGSK-3βについては、western blotting等によりその結果を検証し、再現された場合にはこれらに関連するシグナル経路の他の分子についても解析を追加する。一方、これまではHBV plasmidの強制発現による検討が中心であったが、より生理的な状況を再現するために今後はHBV感染系を用いて同様の実験を行い、genotype間での比較も含め検証していく。以上の解析より、特定の分子あるいはシグナル経路が関わっていることが示唆された場合には、これらの肝生検組織における発現や血清中の動態に関する解析も併せて検討する。2. HBV起因肝癌に関わる分子機構の解析に関しては、引き続き臨床検体の解析を続けていく。特にHBV感染症例において癌部、非癌部のSTING、TBK1、IKKεやこれらと関連する分子の発現パターンやリン酸化、可能であれば局在等の解析も併せて行う。In vitroの検討としては、今回明らかとなった結果を踏まえ、ヒトiPS細胞由来肝幹・前駆細胞を用いて、STING、TBK1、IKKεなどの強制発現あるいはknock down/knock outした場合の形質の変化を解析する。更に、HBV感染時にはHBV DNAがヒトゲノムにintegrationし、特に癌部では80%と高率にHBV integrationが認められることから、新たな解析として、ヒトiPS細胞にHBV遺伝子を導入したHBV integrationモデルを樹立し、STINGを中心としたシグナル経路の変化を解析することを検討する。
理由: 試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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Journal of Heptatology
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