研究課題
研究代表者らは、1. 脂肪性肝炎様マウスモデルを用いてMatrix Metalloproteinase (MMP)-2の線維化進展における機能的意義を解明すること、2. MMP-2活性を制御するMMP-14による肝星細胞の機能調節機構及び上皮細胞との相互作用を解明すること、3. MMP-2及びMMP-14により調節される因子を修飾した肝星細胞の移入による線維化改善モデルの樹立すること、4. ヒトiPS細胞株由来肝間葉系細胞(星細胞様細胞)を誘導し、標的分子が本細胞でも同様の機能を呈する事を証明すること、の4点を目的とする研究を行い、今年度の成果として下記を得た。MMP-14による肝星細胞の機能調節機構及び上皮細胞との相互作用の検討を行った。MMP-14欠損型胎生期肝星細胞と野生型肝芽細胞を共培養すると、胆管細胞型培養体の形成が野生型胎生期肝星細胞と比較して遅延していた。そのメカニズムを検証した結果、MMP-14欠損型細胞では消化管ペプチドに分類される特定のペプチド分泌が低下していることが示された。ペプチドのレセプターをshRNAによりknock downするとペプチドによる促進効果は認めなかった(第25会肝細胞研究会発表)。ヒトiPS細胞から肝間葉系細胞を誘導する培養系の構築を行った。誘導したiPS由来肝間葉系細胞は、生体の肝星細胞とよく似た性質を示し、炎症刺激を加えることで筋線維芽細胞様の細胞に形質が変化した。iPS由来肝間葉系細胞は、未熟な肝細胞であるヒトiPS由来肝前駆細胞と共培養すると、成熟促進効果を呈した。転写因子LHX2を高発現させたヒトiPS由来肝間葉系細胞は、肝前駆細胞のアルブミン発現を100倍以上に上昇させるなど成熟化を強く促進した。LHX2はiPS由来肝間葉系細胞からのラミニン産生を調節し、成熟化に寄与していた(Sci Rep, 2019)。
2: おおむね順調に進展している
MMP-2欠損マウスにおけるNASH様肝障害モデルにおける線維化動態の解析は、昨年度から継続して解析を進め、MMP-2欠損マウスではNASH様肝障害の誘導早期における線維形成が遅延していること、その後は野生型との差異が少なくなるものの、その状態には性差があり、性ホルモンと関連する分子群に変動があることが示された。これらの結果に基づき、今後も検討を進めてゆく予定である。MMP-14欠損マウス由来発生期肝間葉系細胞の形質解析と肝幹/前駆細胞との共培養系を用いた上皮-間葉間相互作用の解析については、前記のようにMMP-14欠損型細胞では消化管ペプチドに分類される特定のペプチド分泌が低下していることが示された。この消化管ペプチドと胆管形成における関係性はこれまで既報でも明らかにされておらず新規性のある知見が得られている。現在は、消化管ペプチドの胆管形成に関与する分子機構を、分子生物学的に解明を進めており、さらに今後は、in vivoでの動態を解析する予定である。すなわち、胆管形成が進む発生過程での解析と、胆管障害と細胆管形成が進む慢性肝障害モデルでの解析を進めており、これらにも前記の消化管ペプチドが機能するデータが得られており、今後有意義な知見が得られる可能性が高いと考えている。ヒトiPS細胞株由来肝間葉系細胞を誘導し、分子機能を検証する系においては、ヒトiPS由来肝間葉系細胞には、未熟なiPS由来肝前駆細胞を成熟させる機能があること、その機能はLHX2発現を調節するとさらに促進されることを解明した。この結果は、ヒトiPS由来肝星細胞を利用するとヒトiPS由来肝細胞の未熟性を克服できる可能性を示し、将来的な肝再生医療への応用が期待されるとともに、遺伝子発現を調節した多様なヒトiPS由来肝星細胞を利用して研究することが今後の研究への基盤技術となることが期待される。
前項までに記載した実績が得られている研究内容に関しては、次年度も継続して進めてゆく。MMP-2欠損マウスにおけるNASH様肝障害モデルにおける線維化動態の解析はMMP-2欠損星細胞を正常肝、NASH様モデル線維化肝の両者からコラゲナーゼ還流法により単離し、whole transcriptome解析によって野生型マウスとの差異を明らかにする。本結果から得られた知見に基づいて、MMP-2が線維化改善に寄与し影響を与えている分子メカニズムを明らかにする。MMP-14欠損マウス由来発生期肝間葉系細胞の形質解析と肝幹/前駆細胞との共培養系を用いた上皮-間葉間相互作用の解析については、消化管ペプチドの胆管形成に関与する分子機構を分子生物学的に解明するとともに、in vivoでのペプチド動態を解析する。すなわち、胆管形成が進む発生過程での解析と、胆管障害と細胆管形成が進む慢性肝障害モデルでの解析を進める。さらに、NASH様肝障害モデルを惹起したマウスに、肝間葉系細胞移入を移入し、線維化を改善せしめるモデルの樹立を進め、これにおいてMMP-14欠損型星細胞が野生型との間に有意な機能的な差を生じるか、検討を進めてゆく。ヒトiPS細胞株由来肝間葉系細胞を誘導し、分子機能を検証する系においては、ヒトiPS細胞株由来肝前駆細胞を胆管細胞系譜へ誘導する過程において、ヒトiPS細胞株由来肝間葉系細胞と共培養し、いかなる形質の変化を呈するか、検討を行う。有意義な知見が得られた場合には、同様に分子生物学的な解析により、その分子機構の解明を試みる。これらの結果に基づいて、最終的にはヒト肝疾患臨床検体を利用して、in vitroで得られた結果を、臨床病態での検証解析へと進めてゆく予定である。
理由: 申請時に計画していた当初よりも、試薬等がより廉価で購入可能だったものがあったため。使用計画:次年度以降に検討・解析するサンプル数・実験の種類を拡大して解析を行う予定であるため、試薬等を増量して購入する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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