HBV持続感染では、cccDNAと呼ばれる環状ウイルスDNAが、宿主細胞の核内に維持されウイルス複製の鋳型となる。cccDNAを除去する有効な治療法は無く、B型肝炎の根治が難しい理由となっているが、現在のところcccDNAを標的とする分子機構の知見は極めて少ない。本研究では、HBV cccDNAの形成・維持に関わる新たな宿主因子の同定及び分子機構について解析を行い、B型肝炎克服への手がかりを得ることを目指している。本年度は、cccDNAへの作用が推定されている抗ウイルス因子APOBEC3タンパク質ファミリーについて、その多型による抗HBV効果の違いを検討した。APOBEC3ファミリーにはAPOBEC3C、APOBEC3G、APOBEC3Hにおいて多型がよく知られている。これらの抗HBV活性を調べるために培養細胞にHBVレプリコンプラスミドとそれぞれのAPOBEC3ベクターを遺伝子導入しウイルス産生量を調べた。その結果、APOBEC3CはI188型(188番目のアミノ酸がイソロイシン)がcommon typeであるS188型(188番目のアミノ酸がセリン)よりも高い抗HBV活性を持つことが明らかとなった。APOBEC3Gでは既知の多型H186とR186の間に差は認められず、APOBEC3HではHIV-1の研究で既報の通りhap II SV-183という型が強い抗HBV活性を示した。APOBEC3H多型の抗ウイルス活性の違いは、主にタンパク質量の差と相関があったが、APOBEC3C多型ではそのタンパク質の差がみられなかった。APOBEC3ファミリーはウイルスゲノムに高頻度突然変異を導入する活性があるので、APOBEC3C多型でこれを比較したところ、I188型に高い変異導入活性がみられたことから、これが抗HBV作用に寄与していることが示唆された。この成果は論文として報告した。
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