研究課題
肝組織環境を構築するのに重要な細胞間シグナルがHBV感染とも関連することが判明したので、このシグナルに関連した分子機構の研究を行った。これはNotchシグナルと呼ばれ、ヒトのみならず各個体における様々な臓器の発生と関連が強いが、肝においては再生や癌化、胆管形成と密接に関与するとされ、肝組織構成細胞間でHBV感染と関連して疾患特異的に相互作用を呈することも予測された。まずHBV感染培養細胞および臨床肝組織のサンプルを利用して、HBVの転写因子が細胞間シグナルと密接に関連することを示した。特にNotchレセプターにおけるユビキチン・プロテアソーム系の機構がHBVの転写に作用することを示し、学会及び論文報告を行った。さらにこの細胞間シグナルはHBVに対する抗ウイルス剤である核酸アナログの作用にも影響を与えることが判明した。核酸アナログはラミブジン、エンテカビルを含むヌクレオシド類似体とアデホビル、テノホビルを含むヌクレオチド類似体との2種類があり、前者はNotchシグナルを古典的な経路で抑制させ、HBVcccDNAに作用する転写因子を抑制させるが、後者ではNotchシグナルの非古典的な活性経路依存的にmTORC2を活性化させ、HBVの複製を抑制することが判明した。これは、核酸アナログのHBVに対する逆転写酵素阻害以外の作用になることが示唆された。以上のように、HBV感染による肝組織環境の変化が細胞間シグナル経路を変化させて、複数の経路で抗ウイルス作用を呈することが判明し、HBVに関連した発癌にも作用することが予測された。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究から、Notchシグナルの亢進した細胞は癌の進展と大きく関連することが判明したため、このシグナルがHBV感染状態とどのように関わっているかについて確認を行った。NotchシグナルとHBVの転写や複製がどの程度関連しうるかについてHBV感染培養細胞やHBV感染臨床肝組織で、NotchレセプターであるNotch1の細胞内ドメインNICDがCREB誘導蛋白であるPKAを介してHBVの転写に影響することを示した。またNICDの活性化に関してユビキチン・プロテアソーム系の変化が関連することも証明し、それを制御するものとしてE3リガーゼが関与し、γセクレターゼ阻害剤やプロテアソーム阻害剤を投与して、下流標的遺伝子の変化やHBVの転写状態の変化を確認した。この実験によりNotchシグナルがHBV cccDNAの転写に大きく関与することを証明した。また、現在B型慢性肝炎患者に対し抗ウイルス治療として核酸アナログが広く投与されているが、核酸アナログの種類でNotchシグナルの活性化が異なることが示された。ラミブジン、エンテカビルのnucleoside analogue投与下ではNotchは抑制され、転写因子を介してHBV cccDNAの転写が抑制されるが、アデフォビル、テノフォビルのnucleotide analogue投与下では逆にNotchシグナルは亢進することを示した。後者の薬剤投与下ではNotchシグナルはnon-canonicalな経路で活性化され、さらにmTORC2シグナルが活性化することが、HBV感染培養細胞および、核酸アナログ投与下のHBV感染臨床肝組織で示された。すなわち、核酸アナログのHBVに対する逆転写酵素阻害以外の作用が細胞間シグナルに対して存在し、これは代謝や免疫の関与するシグナルに肝組織環境全体に影響を与えることが示唆された。
肝組織において細胞間シグナルを含めた肝組織環境を構成する細胞の相互作用がHBV感染状態と密接に関与することが判明した。以上の結果を踏まえ今後の研究の推進方策としては、以下の点を重点的に推進する。HBV感染環境下の肝組織構成細胞の機能解析を行う。肝細胞以外の肝組織構成細胞(胆管細胞、内皮細胞、星細胞など)に対してHBVを導入して発癌に関連したシグナルがどのように引き起こされるかを評価する。HBV感染培養細胞や他の肝組織構成細胞との共培養を行った実験をすすめる。HBV感染可能な培養細胞であるHepG2-NTCP-C4に効率よくHBVを感染させた際の細胞内シグナル伝達変化を観察する。また、内皮細胞や星細胞を共培養させ、細胞間シグナルに変化を来すかを確認する。HBV感染や存在と関係するバイオマーカーの応用を行う。これまで血清M2BPGiがHBコア関連抗原と組み合わせて測定し、両者が高値な症例は肝発癌の高い可能性が示され、学会および論文報告を行った。今後もHBVに関連した臨床応用が可能な血清や尿などの検体中で検出可能なバイオマーカーの探索を行う。HBV感染や癌化と関連したエクソソーム解析も行い、得られた変化が他の多くの患者でも確認できるかを評価する。
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