研究課題
B 型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)を感染させたヒト肝細胞移植uPA/SCIDマウスに対し、entecavir 2 mg/kg/日を連日、あるいはPEG-IFNα2a 30μg/kg×2回/週を6週間投与することにより、血中HBV DNA量はそれぞれ3.6、1.3 log copy/mL減少した。また両薬剤を併用投与することにより、より強い抗ウイルス効果を認め、血中HBV DNA量は投与5週後には検出感度以下に低下した。さらに薬剤投与量を増量し、entecavir 20 mg/kg/日連日およびPEG-IFNα2a 300μg/kg×2回/週を併用投与したところ、投与3-4週後に血中HBV DNAは検出感度以下となった。Real-time PCR法により測定した肝臓内cccDNA量は、治療前1.81±0.55 copy/ hepatocyteであったが、entecavirおよびPEG-IFNα2aを高用量で6週間併用投与したマウスでは、0.12±0.10 copy/hepatocyteに減少した。治療終了後さらに観察した5頭のマウスのうち、2頭のマウスでは治療終了8および9週後に血中HBV DNAが再陽性化したが、3頭のマウスでは治療終了13週後まで検出感度以下が維持された。血中HBV DNAが再上昇した2頭のマウスでは、血中のHBsAgおよび HBcrAg量が治療終了後に上昇していた。治療終了13週後の肝臓内cccDNAは、血中HBV DNAが再陽性化した2頭のマウスでは0.83±0.47 copy/ hepatocyteであったが、血中HBV DNAが検出感度以下を維持していた3頭のマウスでは0.08±0.05 copy/ hepatocyteとより低値だった。以上のようにHBV感染マウスを用いて、高用量のentecavir、PEG-IFNの併用療法により、より早期の血中ウイルス陰性化が得られ、肝臓内cccDNAの低下を認めることが確認された。この結果は、免疫システムがなくとも、薬剤により肝臓内cccDNAを十分に低下させることにより、薬剤中止後も肝臓内HBVの制御が可能となることを示すものと思われた。
3: やや遅れている
HBV感染マウスを用いて、高用量のentecavirおよびPEG-IFNを併用投与することにより、より早期の血中ウイルス陰性化が得られ、肝臓内cccDNAの低下を認めることが確認された。この結果は、免疫システムがなくとも、薬剤により肝臓内cccDNAを十分に低下させることにより、薬剤中止後も肝臓内HBVの制御が可能となることを示すものであったが、本研究の本年度の目的として、アデノウイルスベクターを用いたCRISPR-Cas9システムの作製およびHBV培養細胞を用いたターゲット遺伝子の探索を挙げていた。CRISPR-Cas9システムはすでに作製済みであるが、アデノウイルスベクターへの挿入するAdeno-CRIPR-Cas9の作製が未実施である。来年度以降、手技的な検討を再考し、Adeno-CRIPR-Cas9の作製を行っていく。
EntecavirあるいはPEG-IFNα2aなどの抗ウイルス薬で肝臓内HBV cccDNAを十分低下させることに加え、さらにCRIPR-Cas9システムを用いることにより、HBV cccDNAが排除される可能性がある。引き続きHBV感染マウスを用いて肝臓内cccDNAを低下させる抗HBV薬の探索を行う。またCRISPR-Cas9をアデノウイルスベクターに挿入し、Adeno-CRIPR-Cas9を作製し、HBV発現細胞においてその有効性を検証する。本年度、研究代表者は、本研究に十分な時間を費やすことが困難であった。来年度は研究協力者と伴に研究への時間を十分に確保することとしている。
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