研究課題/領域番号 |
17K09436
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
五十川 正記 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (50723201)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | T細胞 / インターフェロン / 自然免疫 |
研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルスは急性または慢性肝炎の原因となり、B型慢性肝炎の多くは肝硬変、さらには肝細胞癌へと進行する。全世界でおよそ2億5千万人がHBVに持続感染しており、日本でもおよそ30万人がB型慢性肝炎を患う。インターフェロンアルファ(IFN-α)は自然免疫を代表するサイトカインであるI型IFNに属し、B型慢性肝炎治療に対する治療薬として長年使用されている。しかし、その治療効果は極めて限定的であり、時に重篤な副作用も認められる。したがって、IFN-αの治療効果を規定する因子の究明が望まれている。一方で、HBVの排除には感染細胞を選択的に破壊することの出来る獲得免疫、特にHBV特異的CD8+T細胞応答が必要不可欠である (Isogawa M et al. 2014)。機能的なHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導が、B型慢性肝炎の治癒に重要と考えられているが、そのようなT細胞応答が誘導される機序は明らかにされていない。申請者らはB型急性肝炎モデルにおけるHBVの排除にはHBV特異的CD8+T細胞応答が必要であることを報告している。しかし、B型急性肝炎モデルにおけるI型IFNの役割は明らかとなっていない。さらに申請者らは、B型慢性肝炎マウスモデルを用いて、機能的なHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導には、樹状細胞の活性化が重要であることも示した。しかし、このような免疫応答誘導おけるI型IFNの役割は明らかにされていない。以上の背景をふまえ、本研究ではHBV特異的CD8+T細胞応答誘導におけるI型IFNの役割を、B型急性肝炎モデル及びB型慢性肝炎モデルを用いて明らかにする。これらの研究は、HBV特異的T細胞応答の誘導におけるI型IFNの役割を解明するのみならず、IFN-αをベースにしたB型慢性肝炎に対する新しい免疫治療の開発を促進するものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度はI型IFNシグナルがHBV特異的T細胞応答の誘導に及ぼす影響をB型急性肝炎モデルを用いて検討した。ハイドロダイナミック・インジェクション法(HDI法)によりHBVをコードするプラスミドDNAをマウスの肝臓内に導入すると、HBV複製を一過性に肝臓内で誘導できる。申請者らはこのモデルにおけるHBVの排除にはHBV特異的CD8+T細胞が必要であることを示している。一方で、HBVには様々なクローンが存在し、遺伝子配列、複製効率、抗原量などに違いが認められる。慢性化率や肝障害の程度はクローンによって異なるとされているが、その免疫学的要因は全く理解されていない。我々はクローンD60とC22をHDI法で野生型C57BL/6マウスに導入すると、D60に対してはHBV特異的CD8+T細胞応答が誘導され、HBVは速やかに肝臓から排除されるが、クローンC22に対してはHBV特異的CD8+T細胞応答が誘導されず、HBV排除が遅れるということを報告している。I型IFNシグナルがHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導に及ぼす影響を検討するため、D60もしくはC22の導入と同時にI型IFNを強く誘導することで知られるPoly I:Cを投与した。興味深いことに、Poly I:Cを投与することにより、D60に対するHBV特異的CD8+T細胞応答は減弱した。一方で、C22に対するHBV特異的CD8+T細胞応答は誘導されないままであった。次にIFN-α/β受容体(IFN-α/βR)を欠損するIFN-α/βRKOマウスにクローンC22をHDI法で発現させたところ、HBV特異的CD8+T細胞応答が強く誘導され、その結果C22の排除が早まった。以上の結果は、I型IFNシグナルがHBV特異的T細胞応答の誘導とHBV排除に対して抑制的に働いていることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の結果から、I型IFNシグナルがHBV特異的T細胞応答を抑制する可能性が示唆された。この知見は非常に新規性が高く、また臨床的にも重要であると考えられるため、平成30年度はそのメカニズムの解析を行う。具体的には I型IFNシグナルが直接的にT 細胞を阻害しているかを検討するため、HBV特異的T細胞受容体(TCR)を発現するトランスジェニックマウス(HBV-TCRTgマウス)をIFN-α/βRKOと交配し、IFN-α/βRを欠損するHBV-TCRTgマウスを作成する。IFN-α/βRKOもしくは野生型(IFN-α/βRWT)のHBV-TCRTgマウスの脾臓からCD8+T細胞を単離し、C57BL/6マウスに養子移入する。その後、クローンC22をHDI法で発現し、IFN-α/βRKOとIFN-α/βRWTのHBV特異的T細胞応答を解析する。I型IFNシグナルが直接的にT 細胞を阻害しているのであれば、IFN-α/βRKOのHBV特異的T細胞は、IFN-α/βRWTのT細胞よりも肝臓内のHBVに対して強く応答することが予想される。 次の実験では、IFN-α/βRを発現するHBV特異的T細胞を野生型、もしくはIFN-α/βRKOマウスに養子移入し、HDI法でクローンC22を発現する。I型IFNシグナルが間接的にHBV特異的T細胞応答を抑制しているのであれば、IFN-α/βRを発現するHBV特異的T細胞はIFN-α/βRWTよりもIFN-α/βRKOマウスにおいて強く反応すると予想される。 またI型IFNシグナルはT細胞応答に対して抑制的に働くと報告のあるIL-10の誘導やNK細胞の活性化を司るとの報告ある。したがって、IFN-α/βRKOとIFN-α/βRWTにクローンC22をHDIにより発現し、肝臓内におけるIL-10レベルとNK細胞の活性化を比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)29年度は高額な試薬の購入が無く、当該研究費に置いて旅費支出も不要であった。 (使用計画)研究開始2年度目となる30年度は消耗品費が増える見込みである。さらに、海外での成果報告を予定しており、繰越研究費を加えることでこれらの支出をまかなう計画である。
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