研究課題
B型慢性肝炎の多くは肝硬変、さらには肝細胞癌へと進行する。全世界でおよそ2億5千万人がHBVに持続感染しており、日本でもおよそ30万人がB型慢性肝炎を患う。インターフェロンアルファ(IFN-α)は自然免疫を代表するサイトカインであるI型IFNに属し、B型慢性肝炎治療に対する治療薬として長年使用されている。しかし、その治療効果は極めて限定的であり、時に重篤な副作用も認められる。したがって、IFN-αの治療効果を規定する因子の究明が望まれている。一方で、HBVの排除には感染細胞を選択的に破壊することの出来る獲得免疫、特にHBV特異的CD8+T細胞応答が必要不可欠である。機能的なHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導が、B型慢性肝炎の治癒に重要と考えられているが、そのようなT細胞応答が誘導される機序は明らかにされていない。申請者らは一過性HBV感染マウスモデルにおけるHBVの排除にはHBV特異的CD8+T細胞応答が必要であることを報告している。さらに、持続性HBV感染マウスモデルを用いて、機能的なHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導には、樹状細胞の活性化が重要であることも示した。しかし、このような免疫応答誘導おけるI型IFNの役割は明らかにされていない。以上の背景をふまえ、本研究ではHBV特異的CD8+T細胞応答誘導におけるI型IFNの役割を、一過性HBV感染モデルおよび持続性HBV感染マウスモデルを用いて明らかにする。H30年度までの研究から、I型IFNは一過性感染モデルと持続性感染ではHBV特異的T細胞応答に対して全くことなる影響を及ぼすことが明らかとなった。これらの研究は、HBV特異的T細胞応答の誘導におけるI型IFNの役割を解明するのみならず、IFN-αをベースにしたB型慢性肝炎に対する新しい免疫治療の開発を促進するものと期待される。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度までに、持続性HBV感染マウスモデルでは、Poly I:C-IVFを用いてI型IFNを肝臓内で強く誘導することにより、HBV特異的CD8+T細胞の免疫寛容を克服出来ることを報告している。平成30年度は、一過性HBV感染モデルを用いて、I型IFNシグナルがHBV特異的CD8+T細胞応答に及ぼす影響を検討した。具体的には、野生型C57BL/6マウスとIFN-α/β受容体欠損マウス(IFN-α/βRKOマウス)の肝臓にハイドロダイナミック法を用いてHBVを導入し、HBV特異的CD8+T細胞応答とHBV発現を解析した。予想に反して、HBV特異的CD8+T細胞応答は野生型マウスよりもIFN-α/βRKOマウスでより強く誘導された。さらに、HBVは野生型マウスでは導入14日後も持続したが、IFN-α/βRKOマウスでは排除された。以上の結果は、一過性HBV感染モデルにおいて、I型IFNはHBV特異的CD8+T細胞応答に対して抑制的に働くことを示唆している。興味深いことに、HBV特異的CD8+T細胞応答の違いはHBV導入早期におけるHBV発現量と相関していた。I型IFNがHBV特異的CD8+T細胞応答を抑制するメカニズムを検討するため、IFN-α/βRKOマウスにHBVを導入すると同時に、HBVに特異的なsiRNAおよびコントロールsiRNAを投与し、その後のHBV特異的CD8+T細胞応答とHBV発現を解析した。興味深いことに、HBVに特異的なsiRNAを投与した群ではコントロールsiRNAを投与した群に比較して、HBV特異的CD8+T細胞応答は明らかに減弱し、HBVの排除が遅れた。以上の結果から、一過性HBV感染モデルにおいて、I型IFNはHBV導入早期の抗原量を抑制することにより、間接的にHBV特異的CD8+T細胞応答を減弱させることが示唆された。
2019年度は、持続性HBV感染マウスモデルにおけるHBV特異的CD8+T細胞応答の誘導に、肝臓内でのI型IFN産生が重要である原因を検討する。HBV特異的CD8+T細胞を産生するTCR-TgマウスをIFN-α/β受容体(IFN-α/βR)欠損マウスと交配し、IFN-α/βR欠損HBV特異的TCR-Tgマウスを作成する。野生型、およびIFN-α/βR欠損HBV特異的TCR-Tgマウスから取り出したHBV特異的CD8+T細胞をHBV―Tgマウスに養子移入し、Poly I:C-IVFを投与する。養子移入7日、14日後に肝臓内のHBV特異的CD8+T細胞応答を解析する。これらの結果から、HBV特異的CD8+T細胞の機能性の誘導に、T細胞内のI型IFNシグナルがどの程度重要な役割を果たしているかが明らかになる。さらに、肝臓内抗原認識がHBV特異的CD8+T細胞内のI型IFNシグナル経路におよぼす影響を検討するため、HBV特異的CD8+T細胞をHBV―Tgマウスに養子移入し、7日後に肝臓から免疫寛容状態にあるHBV特異的CD8+T細胞を単離する。コントロールとして使用する機能的なT細胞を準備するため、HBV特異的CD8+T細胞を野生型C57BL/6マウスに養子移入し、HBV特異的CD8+T細胞エピトープに相当するペプチドとCD40抗体を投与する。養子移入7日後にこれらマウスの脾臓からHBV特異的CD8+T細胞を単離する。これら2群間で、I型IFNシグナル経路に関与する遺伝子発現を網羅的に比較解析する。さらに、フローサイトメトリーを用いて肝臓内抗原認識がSTAT1のリン酸化に与える影響も検討する。
(理由)30年度は高額な試薬の購入がなく、当該研究費に置いて旅費支出も不要であった。(使用計画)研究開始3年度目となる30年度は消耗品費が増える見込みである。また、比較的多くのサンプルのマイクロアレイ解析を行うため、高額な支出が予想される。さらに、海外での成果報告を予定しており、繰越研究費を加えることでこれらの支出をまかなう計画である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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