研究課題/領域番号 |
17K09443
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
林 道廣 大阪医科大学, 医学部, 非常勤講師 (90314179)
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研究分担者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪性肝炎 / キマーゼ / レニン / 大豆サポニン / 予防効果 |
研究実績の概要 |
本研究目的は、臨床に類似した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を作製することとそのNASHモデルを用いてレニンとキマーゼの阻害作用を有する大豆サポニンに対する影響を解析することであった。 昨年度は、ハムスターに高脂肪と高コレステロールを含有する餌で飼育することで臨床のNASH患者に類似したモデルの作製に成功した。今年度は、レニンとキマーゼの活性阻害を有することが報告されている大豆サポニンを用いて昨年度に確立した高脂肪と高コレステロールを含有する餌で作製するNASHに対する効果を検討した。 8週齢の雄性ハムスター18匹を正常食で飼育する正常群、高脂肪と高コレステロールを含有する餌(HFC餌)で飼育するHFC群、HFC餌と同時に大豆サポニン(4 mg/ml:飽和濃度)を飲水投与するHFC+サポニン群の3群(各群6匹)に分けて実験を開始し、12週後に解析を行った。体重は、実験開始4週後よりHFC餌で飼育した2群で正常餌に比べて有意に増加したが、HFC群とHFC+サポニン群の2群間に差を認めなかった。12週後の時点でもHFC餌で飼育した2群は共に血中の総コレステロールとトリグリセリドが有意に高く、空腹時血糖値も有意な高値を示したが、HFC群とHFC+サポニン群に差を認めなかった。HFC群の肝臓の組織解析では、正常餌群では見られない著明な脂肪滴の増加、線維化面積の増大、炎症細胞の浸潤を認め、キマーゼ活性も有意に増加したが、血中のレニン活性に変化はなかった。一方、HFC+サポニン群の肝臓でも脂肪滴の増加、線維化形成、炎症細胞の浸潤を認め、キマーゼ活性およびレニン活性に対してもHFC群との間に有意な差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の目的の一つは、メタボリックシンドロームに起因する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルを作製し、そのNASHの発症または進展機序におけるレニンおよびキマーゼの動態解析を行うことであった。 昨年度、ハムスターに高脂肪と高コレステロールを含有する餌(HFC餌)を与えることで、有意な体重増加(肥満)に加え、血圧上昇、空腹時血糖値の有意な上昇、血中総コレステロール値およびトリグリセリド値の有意な上昇を認め、メタボリックシンドロームを発症していることが確認できた。また、肝臓の組織解析の結果、著明な脂肪滴の増加、線維化面積の増大、炎症細胞浸潤の増加を認めた。これらの結果より、ハムスターにHFC餌を与えることでメタボリックシンドロームに起因するNASHモデルが作製できることを確認できた。また、本NASHモデルにおいて、血中のレニン活性は、NASHモデルと正常ハムスターとの間に差はなかったが、肝臓のキマーゼ活性は有意に増加することが確認できた。 本年度は昨年度の結果を踏まえ、本NASHモデルに対する大豆サポニンの飲水投与による影響を解析した。昨年度の報告した結果同様、ハムスターをHFC餌で飼育することで同様の症状を示すNASHが形成されることが確認された。一方、大豆サポニン(4 mg/ml:飽和濃度)を飲水投与する実験では、肝臓のキマーゼおよび血中のレニン活性を抑制することができず、NASHを予防することはできなかったが、本モデルの再現性の高さは証明された。 以上より、当初の計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、我々が確立したハムスターに高脂肪と高コレステロールを含有する餌(HFC餌)で飼育して作製する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルを用いてオスモティックミニポンプによる高濃度大豆サポニンの影響を解析する予定である。また、大豆サポニンが効果を示さない可能性もあることより、他のキマーゼ阻害活性を示す生薬成分A(特許申請準備中のため)についても効果を検討する予定である。 雄性ハムスターの8週齢より正常食群、HFC餌で飼育するHFC群、HFC餌と大豆サポニンをオスモティックミニポンプ(50 mg/ml)で飼育するHFC+サポニン群、HFC+生薬成分A群の4群を作製し、12週間飼育する予定である。 HFC餌負荷前および負荷後4週、8週、12週の体重および血圧を測定する。試験開始後12週の時点で、血中の総コレステロール値、トリグリセリド、AST、ALT、レニン活性、アンジオテンシンⅡ濃度を測定する。HFC餌負荷後12週の肝臓を摘出し、肝臓組織切片を用いてヘマトキシリン・エオジン染色にて脂肪滴の定量、シリウスレッド染色にて線維化面積率の計測、トルイジンブルー染色にて肥満細胞数の定量、抗キマーゼ抗体を用いたキマーゼ免疫染色にてキマーゼ陽性細胞数の定量を行う。また、残りの肝臓組織を用いてキマーゼ、炎症マーカーのTumor necrosis factor(TNF)-α、線維化関連因子のTransforming growth factor(TGF)-βおよびコラーゲンの遺伝子発現量をリアルタイムPCRにて定量し、キマーゼ活性はアンジオテンシンIを基質として測定する。 次年度の研究計画は、本学実験動物センターの動物実験委員会にて承認済みである(2019-015)。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にハムスターに高脂肪と高コレステロールを含有する餌(HFC餌)で飼育して作製する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)モデルに対する大豆サポニンの影響を解析する予定であった。本実験は計画通りに実験を遂行し、再現性高くNASHモデルが作製できることは確認されたが、飽和濃度で飲水投与した大豆サポニンでは効果が認められかった。計画では作用機序の解明のため、肝臓組織の炎症マーカーのTNF-αや線維化関連因子のTGF-βおよびコラーゲンなどの解析も行う予定であったが、飲水投与大豆サポニンによる血中のレニン活性および肝臓キマーゼ活性に対する阻害活性が認められず、組織学的解析によるNASH予防効果が確認できなかったため、それらの解析を中止したので残額が発生した。 次年度には、高濃度の大豆サポニン投与によるNASH発症に対する影響を解析する予定で、そのために本年度の実験に加えてオスモティックミニポンプの購入費用を次年度予算に計上している。また、大豆サポニンの効果が確認できない可能性を考え、新たに我々が見出したキマーゼ阻害活性を有する生薬成分AのNASHに対する影響も解析することを計画しており、それらの費用に本年度の使用残額を充てる予定である。
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