研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis; NASH)は、生活習慣の欧米化にともない本邦でも慢性肝疾患の主な成因となっているだけでなく、患者数が急増している非B非C肝癌の主な成因としても注目されている。過食とともに、活動量の低下はNASHの主な原因であり、運動療法によりNASHが改善することは広く認知されている。近年、骨格筋は運動器としてだけでなく、内分泌臓器であることが明らかとなった。これまでに約30種類の筋細胞由来のホルモンであるマイオカインが同定されており、造骨作用、抗炎症作用、認知能の改善作用などがあることが報告されている。また、マイオカインの中にはインスリン抵抗性改善作用や、細胞増殖抑制作用を有するものも報告されている。本研究の目的は、運動誘発性マイオカインが、NASHおよび肝発癌におよぼす影響を検討することである。平成29年度、我々はNASHモデルマウスを作成し、マイオカインの一種であるdecorinの血中濃度がコントロール群と比較して有意に低値であることを明らかにした。平成30年度は、肝動脈化学塞栓術にて治療された肝癌患者を対象として筋肉量と相関する因子を検討した結果、加齢と肝予備能は骨格筋量と有意な相関を認めなかったが、マイオカインであるdecorin値の低下が骨格筋量減少に最も関わる因子であることも明らかとなった。今年度、我々は、ヒト肝癌培養細胞の培養上清にdecorinを添加し、マイオカインが肝癌細胞の増殖におよぼす影響を検討した。その結果、decorin群では、コントロール群と比較して有意な細胞増殖の抑制効果が認められた(72.2±5.2%, P<0.01)。また、decorin群ではコントロール群と比較して、EGFR, GSK3βおよびERK1/2 のリン酸化が抑制されることも明らかとなった。
|