本年度は胆管特異的に変異Kras・p53を発現し、Keap1を欠損するマウスでの発癌促進メカニズムをさらに解析した。本モデルマウスの肝組織では異型を有する細胆管の増生が顕著であり、肝組織由来RNAを用いて行ったマイクロアレイの結果では典型的なNrf2標的遺伝子であるNqo1やGstm1、UDPグルクロン酸転移酵素群の発現増加が認められた。これらの遺伝子群とともに、胆管分化のマーカーであるGgtファミリー遺伝子や転写因子であるSox4、Sox9の発現増加が認められた。免疫染色では増生した細胆管がSox9陽性を示しており、胆管方向への分化を示すものと考えられた。以上の結果については英語論文として投稿・掲載済みである。 ヒト胆管癌組織においてもKEAP1発現・NQO1発現・SOX9発現を免疫染色にて評価し、KEAP1陰性・NQO1陽性を示す症例でSOX9発現が陽性を示すものが多いことを確認した。以上の結果はマウスモデルと同様、KEAP1欠損によるNRF2活性化がヒト胆管癌でも発癌過程に寄与している可能性を示唆するものである。 今後の検討課題としてはNRF2活性化がみられるヒト胆管癌症例の臨床的特徴や、薬剤奏功性などの解析が必要である。経口投与可能なNrf2阻害剤によるマウス胆管癌モデルへの介入実験や、既存薬剤の効果増強が可能であるかを今後検討予定である。酸化ストレス応答機構が胆管発癌過程に寄与することがマウスモデルを用いて明らかにできたことは有意義であり、今後の発展が期待される。
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