前年度までにヒトiPS細胞から分化誘導したβ様細胞への分化効率の上昇と成熟度の向上にドーパミンの合成阻害剤やドーパミンを貯留するためのトランスポーター(VMAT2)の阻害剤の培地中への添加が効果的であることを明らかにしてきた これまでは分化過程において内分泌前駆細胞からインスリン陽性細胞までの4日間の阻害剤の添加による評価を行っていたが、さらに2週間の長期間の薬剤処理を行った。薬剤を添加しない場合は脱分化マーカーであるALDH1A3の発現が進行した。一方で長期間の阻害剤添加は、インスリン陽性細胞の数を増やすのではなくこの脱分化の進行を抑制することが主たる効果であると考えられる結果を示した。 β様細胞の分化、成熟化の過程では幼弱な細胞ながらもインスリン分泌が起こっている。この弱いインスリン分泌は細胞の成熟化を促進する遺伝子の発現上昇とともに、同時進行する脱分化を抑制することを明らかにした。また、VMAT2を膵β細胞でのみ欠失するコンディショナルノックアウトマウスの解析実験により生体内では生後もこの成熟化・脱分化をβ細胞毎に違うバランスにおくことで一部のβ細胞だけが膵臓内で機能し、それが時間経過とともにバランスを変化させることを示唆する結果を得た。 これはいわゆる「ヘテロ性」の維持であり、インスリンとともに細胞外に放出されるドーパミンがこのヘテロ性の維持の主要な因子だといえる。ドーパミンD1受容体アンタゴニストをβ細胞に作用させるとカルシウムの流入が増加し、インスリン分泌が亢進した。この過程にはドーパミンD1受容体と他のGPCRの会合状態変化が関連していることが予想されるため会合状態のイメージングについてFRET等の技術を用いて解析を進める予定である。
|