研究課題/領域番号 |
17K09460
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高石 繁生 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (20596829)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵癌自然発症マウス / ヒト膵癌培養細胞株 / ヒト膵癌オルガノイド / COX-1遺伝子 / COX-2遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究は下記の2つのテーマから成る。A:膵癌マウスにおける骨髄由来腫瘍関連(筋)線維芽細胞およびCox-1, -2遺伝子の役割を明らかにする。B:ヒト膵癌幹細胞におけるCOX-1, -2遺伝子の機能を解析する。 A:初年度に入手した遺伝子改変マウスを用いて、前年度に引き続き以下の交配を行った。a) 膵臓特異的Cre発現マウス(Ptf1a-Cre) b) 条件的変異型K-rasG12D発現マウス(LSL-KrasG12D) c) 条件的p53ノックアウトマウス(p53 flox) d) 条件的Cox-1ノックアウトマウス(Cox-1 flox) e) 条件的Cox-2ノックアウトマウス(Cox-2 flox)。これらマウスのstrainは、a) b) c) d)はいずれも純粋なC57BL/6(B6と略)である。e)はB6と129Svの混合種でB6と2回戻し交配(B6F2)されていたが、今年度はB6への戻し交配をさらに4回行った結果、(ほぼ)純粋なB6を背景とする条件的Cox-2 floxマウスが得られた。 交配状況:KPCマウス(KPC+/- :p53がヘテロ, KPC-/-:p53がホモ)を維持しながら、KPCマウス+/-にd) を交配し、KPC+/-Cox1flox+/-を作成した。並行してKPC+/-Cox1-/-の作成も開始した。加えてKPCマウス+/-にe) を交配し、KPC+/-Cox2flox+/-の作成を開始した。 B:ヒト膵癌培養細胞株22種類のうち、前年度に得られた癌幹細胞分画を含有する4種類の培養細胞株に加えて、ヒト膵癌手術検体から3次元オルガノイド培養を実施し、8例のオルガノイドを樹立した。うち2例は十分な凍結ストックを作成し、本研究に用いることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前述の、「研究実績の概要」にも記したとおり、本研究は2つのテーマからなり、各テーマの2019年度の進捗状況は以下のとおりである。 A:1) 生後約24週齢のKPC+/-Cox1flox+/-マウス4匹と対照群のKPCマウス+/-Cox-1flox+/+4匹(共にオスメス2匹づつ)を解剖して腹部臓器を調べたところ、いずれも膵臓の一部が腫大しており、腫瘍の病理組織標本(H-E染色)では、どちらの群にも膵臓内に腺房導管異形成(ADM)または膵上皮内腫瘍(PanIN)が観察されたが、両群間に差はなかった。 2) KPC+/-Cox flox1-/-マウスに関しては繁殖が不良でコロニーの維持・拡大は難しそうであった。3) KPC+/-Cox-2 flox+/-マウスは、ほぼ順調に生育した。 B:1) 膵癌培養細胞株KLM-1において上皮間葉転換因子SNAIL2が高発現しており、これをノックダウン(KD)した細胞とKDする前の元の細胞のmRNAを用いて、マイクロアレイによる遺伝子発現解析を施行したところ、COX-2はSNAIL2-KDにより発現が有意に低下したが、COX-1の発現は低下しなかった。 2)ヒト膵癌手術検体10例のフォルマリン固定パラフィン包埋スライドの連続切片に対して、抗COX-1抗体および抗COX-2抗体を用いて、免疫組織化学染色を実施した。その結果、ヒト膵癌組織において、COX-1は主に癌組織周辺のリンパ節や間質の線維芽細胞に発現しており、腫瘍細胞では10例中4例に弱く発現していた。対照的に、COX-2は10例中8例の腫瘍細胞に陽性であり、特に浸潤部位に強い傾向があったが、癌周辺組織では間質のごく一部(恐らく線維芽細胞)に発現するのみであった。
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今後の研究の推進方策 |
各テーマの今後の研究計画・推進方策は以下のとおりである。 A:1) KPC+/-Cox-1 flox+/-および対照群KPC+/-Cox-1 flox+/+の高齢マウス(例えば生後12か月以降)の膵病変を解析する。KPC+/-Cox-1 flox-/-のコロニー形成は難しそうであるが継続する。 2) 並行して、KPC+/-Cox-2 flox+/-における膵病変の解析、およびKPC+/-Cox-2 flox-/-の作成を進めて行く。加えて、KPC+/-Cox-1 flox+/-Cox-2 flox+/-マウスの作成(KPCマウスにおけるCox-1, -2の条件的二重ノックアウト)も試みる。 B:1) 膵癌培養細胞株のうち、COX-1, -2遺伝子を共に発現するKLM-1細胞を用いて、COX-1, -2の各々のノックダウン安定株を作成し、細胞表面マーカーの発現様式や腫瘍形成能、治療抵抗性を解析する。逆にCOX-1, -2遺伝子をどちらも発現していないKMP-5細胞に、COX-1, -2遺伝子の完全長cDNAをそれぞれ強制発現させた安定株を作成し、KLM1細胞と同様の解析を行う。 2) さらに膵癌オルガノイドを用いても、COX-1, -2遺伝子の発現状況を定量的RT-PCR法やウエスタンブロット法などで解析し、その発現パターンに応じて、ノックダウンまたは強制発現による表現型の変化や免疫不全マウスへの移植による腫瘍形成能、治療抵抗性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の「今後の研究の推進方策」にも記したとおり、2つのテーマそれぞれにおいて研究計画を立てており、当初の研究期間は2020年3月までであったが、計画の遂行が遅れているため研究期間を1年間延長し、現時点での研究費残額を2020年度に使用する予定である。今年度の研究計画は前述の3.にも記載した内容で、以下のとおりである。 A:1) KPC+/-Cox-1 flox+/-の高齢マウスの膵病変を解析する。KPC+/-Cox-1 flox-/-のコロニー形成は難しそうであるが継続する。2) 並行して、KPC+/-Cox-2 flox+/-における膵病変の解析、およびKPC+/-Cox-2 flox-/-の作成を進めて行く。 B:1) 膵癌培養細胞株のうち、KLM-1細胞を用いて、COX-1, -2の各々のノックダウン安定株を作成し、細胞表面マーカーの発現様式や腫瘍形成能、治療抵抗性を解析する。またKMP-5細胞に、COX-1, -2遺伝子の完全長cDNAをそれぞれ強制発現させた安定株を作成し、KLM1細胞と同様の解析を行う。2) さらに膵癌オルガノイドを用いても、COX-1, -2遺伝子の発現状況を定量的RT-PCR法やウエスタンブロット法などで解析し、その発現パターンに応じて、ノックダウンまたは強制発現による表現型の変化や免疫不全マウスへの移植による腫瘍形成能、治療抵抗性を検証する。
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