研究課題
リン脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)は癌患者において癌性腹水中にも高濃度で発現している。オートタキシン(ATX)はLPA発現の主な調節因子であり、リゾホスファチジルコリン(LPC)を加水分解することでLPAを生成する。また、ATXは腹腔内の脂肪細胞を含む腫瘍の微小環境より分泌される。膵癌の癌性腹水中のLPA制御の観点から、腹水中のATXに注目した新規標的治療の可能性を検証した。その結果、膵癌腹膜播種モデルマウスにおいて癌性腹水中ATX発現は血中と比較して有意に高かった 。In vitroにおいて、LPA投与により膵癌細胞株の有意な増殖能・遊走能の促進を認めた。一方、LPC投与下ではLPA投与と同様に有意な増殖能・遊走能の促進を認めたが、ATX制御下では増殖能・遊走能が有意に抑制された。In vivoでは、PF-8380の腹腔内投与により血中のATX活性が有意に抑制された。治療群はコントロール群と比較して、有意な腫瘍量と腹水量の減少を認めた。腫瘍サンプルを用いた検証では、治療群においてLPAシグナルの抑制(ERK1/2のリン酸化抑制)とPCNA、Ki67の発現低下を認めた。さらにATXは腫瘍組織のみならず、周囲の脂肪組織にも発現が確認でき、回帰分析では、腫瘍量と腹水中ATX、腫瘍量と腹水量の間に正の相関を認めた。以上より、膵癌ではもLPAシグナルは癌促進に働き、ATX阻害剤は膵癌腹膜播種に対して腹水中のLPAシグナルの抑制を介して抗腫瘍効果をもたらすことが明らかとなった。進行膵癌において腹水中ATXは有用なbiomarkerとなり得るとともに可能性があり、さらに腹水中ATXを標的とした治療は進行膵癌における新たな分子標的治療となり得ると示唆された。 本研究結果について学会発表とともに論文作成し、Cancer Scienceにacceptされた。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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