研究課題
膵癌は予後不良の難治癌である。定期的に人間ドックを受診しているにも関わらず、切除不能な膵癌が見つかることがあり、早期膵癌や膵発癌する受診者を正確に見つけることが急務である。このため、申請者らは、これまで、膵臓の前癌病変と言われる膵管内乳頭粘液腫瘍(IPMN)患者を対象に、膵癌を超早期に捕捉する技術の開発を試み、前向きに観察して来た。IPMN患者では、膵発癌のみではなく他臓器発癌(大腸癌、胃癌などの腺癌)の頻度が高いことが判明した。膵発癌に限らず、発癌するIPMN患者を発見することは有用と考えた。発癌率が数%/年と高頻度であり、癌発見率(担癌比率)が0.3%と低い人間ドック受診者を対象にするよりも、医療経済的にも注目できる。なお、IPMN患者は、大阪市立大学単施設だけでも2014年5月から2019年3月までに980名以上登録され、決して稀な疾患ではない(UMIN No. 17958)。さて、エクソソームは、細胞が細胞間情報伝達物質として血液などに放出する。エクソソーム中のmiRNAを解析すると放出元の細胞の情報が明らかになる。また、エクソソーム中のmiRNAは比較的安定な状態で血中に存在する。血液から癌細胞由来のエキソソームを適切に分離することで超早期癌の診断ができる。磁気ビーズ(MACSTMシステム)を用いたCD326陽性エクソソーム分離方法では、膵管上皮のみならず他の消化管由来のエクソソームを選択的に抽出できることが示唆された。IPMN患者では、膵発癌のみではなく他の消化管発癌(大腸癌、胃癌などの腺癌)の頻度が高いとされ、発癌するIPMN患者を発見するのに、この方法が、有効と考えられた。一方、ゲノム網羅的にメチル化解析では、腫瘍性病変で高頻度にメチル化し、正常や非腫瘍性病変では低頻度しかメチル化していない遺伝子がわかり、腫瘍性病変の早期発見法への応用が期待できる。
3: やや遅れている
大阪市立大学において、同意をいただいているIPMN患者の循環血中のエクソソーム含有miRNAの発現パターンとDNAメチル化状態を解析している(UMIN No. 17958)。前向きに3年間観察し発癌についての調査を行っている。miRNAの発現パターン及びDNAメチル化状態と発癌結果から発癌リスクの高いIPMN患者におけるmiRNAの発現パターン及びDNAメチル化状態の同定を試みている。平行して発癌メカニズムを究明している。決して稀な疾患ではないIPMN患者において、膵癌のみならず他臓器癌の発癌予測を目指す点が独創的である。消化器癌の早期発見という点では、癌発見率(担癌比率)が0.3%と低い人間ドック受診者を対象にするのではなく、発癌頻度が高い集団(数%/年)を対象とする点が、医療経済的に意義がある。
既に登録されている患者データから、年数%の発癌が見込んでいる。発癌予測には、統計学的解析手法である主成分解析をまず試みるが、研究が当初計画どおりに進まず優位差がでない場合、「機械学習」のうち、「半教師あり学習」という手法を用いる。人がプログラムしなくても、超高性能のコンピュータである人工知能が自ら、ビッグデータから反復的に学習(機械学習)し、そこに潜むパターンを見つけ出し、それを新たなデータに当てはめることでパターンに従って予測出来る。過去のデータから将来を予測する時には「半教師あり学習」が汎用される。即ち発癌の有無が既に判明している少量のラベル付きデータと、未だ発癌の有無が不明な多量のラベルなしデータを使う。これにより統計学的に優位差が出なくても、発癌予測が可能である。決して稀な疾患ではないIPMN患者において、なんらかの発癌を認めた患者とそうでない患者のmiRNA発現パターンとDNAメチル化パターンを比較すれば、発癌にかかわるmiRNA発現とDNAメチル化状態が見つかるだけではなく、そのメカニズム究明も出来得ると予想される。膵癌のみならず他臓器癌の発癌予測が出来れば臨床的に有意義であるだけではなく、そのメカニズムを明らかにすることで、基礎研究の分野にも貢献することが出来る。
申請者らは、膵臓の前癌病変と言われる膵管内乳頭粘液腫瘍(IPMN)患者を対象に前向きに観察して来た。IPMN患者では、膵発癌のみではなく他臓器発癌(大腸癌、胃癌などの腺癌)の頻度が高いことが判明した。発癌予測として主成分解析を試みたが困難であった。次に人工知能による「機械学習」という手法を検討中であるが、時間を要している。未使用額はその経費に充てたい。なお、愚父の介護のためにも時間を要した。
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Clin J Gastroenterol.
巻: - ページ: -
10.1007/s12328-020-01107-6
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