研究課題/領域番号 |
17K09476
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田中 信治 広島大学, 病院(医), 教授 (00260670)
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研究分担者 |
卜部 祐司 広島大学, 病院(医), 助教 (10648033)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | serrated pathway / 早期鋸歯状腺癌 |
研究実績の概要 |
大腸癌の発癌経路は従来のadenocarcinoma sequenceに加えて、近年では新たな経路としてserrated pathwayが提唱され注目されている。遺伝学的な研究においては予後不良な群に分類される腫瘍が、serrated pathwayに関連する遺伝子変異が多いことが報告されている。一方、病理学的には、いくつかの特徴的な病理所見をもつ腫瘍が鋸歯状病変として定義されている。しかしながら、鋸歯状病変は病理学的に多彩な像を持っており、一概に全ての鋸歯状病変が予後不良であるとは言えないと考えられる。このため本研究では早期鋸歯状腺癌において悪性度の高い病変に特徴的な病理所見を同定し、さらに遺伝学的に予後不良と呼ばれるpathwayにはどのような特徴があるのかを検討した。当院で経験した早期鋸歯状腺癌40症例について検討したところ、癌部に鋸歯状構造をもつ腫瘍(17病変)と鋸歯状構造を持たない腫瘍(23病変)があることがわかった。さらに鋸歯状構造を持つ腫瘍ではT1癌の割合が鋸歯状構造を持たない腫瘍と比べて有意に多く、内視鏡での拡大観察所見でも悪性度の高い所見をもつ腫瘍が鋸歯状構造を持つ腫瘍で有意に多かった。さらに、この40症例において、sessile serrated adenoma (SSA)、traditional serrated adenoma (TSA)、unclassified、non-serrated adenoma 由来の癌であるか比べたところ、SSA、unclassified、 non-serrated adenoma由来の癌ではTSAと比べて有意にT1癌の頻度が高かった。このため癌部に鋸歯状構造をもつ腫瘍、TSA由来ではない腫瘍は悪性度が高い腫瘍であることを同定し、論文化して報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、一年目は早期鋸歯状腺癌の集積と症例の臨床病理学的な背景について解析を行った。その結果、悪性度と関連する特徴的な病理所見として癌部での鋸歯状構造、非traditional serrated adenoma由来の腫瘍、ということを同定し、論文化して報告を行った。さらにこの早期鋸歯状腺癌症例を用いて、遺伝学的な解析を行うべく、マイクロダイセクションにて癌部と正常部を分けて切り出しを行い、gDNAの抽出を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
臨床病理学的な解析が終了したため、遺伝学的な解析を今後は行なっていく予定である。本研究の主目的は、遺伝学的な解析からみたserrated pathwayが臨床的な鋸歯状腺癌の一部にすぎないのではないかということを証明すること、serrated pathwayに相当する鋸歯状腺癌の臨床病的学的特徴の同定である。このため早期鋸歯状腺癌症例を遺伝学的解析でのserrated pathwayを含む3つの遺伝学的なタイプに、既報に準じて免疫染色とMSI解析にて分類する。また遺伝子タイプ別に臨床病理学的所見を比較し、serrated pathwayと関連をある臨床病理学的特徴を明らかにする。さらに早期鋸歯状腺癌のゲノム変異については明らかになっていないため、癌部、腺腫部それぞれからgDNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いたdeep sequenceによってそれぞれのタイプ別に特徴的なゲノム変異を明らかにする。研究計画段階ではExome解析を行う予定であったが、FFPE切片であり、サンプルの質なども考慮して癌関連遺伝子のdeep sequenceを行う予定とした。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者が担当している部分の、マイクロダイセクションでの癌部の切り分けについて3月末まで検証に時間を要し、標本作成、測定による経費支払いを4月に持ち越したため。
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