研究課題/領域番号 |
17K09487
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中島 忠 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (40510574)
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研究分担者 |
倉林 正彦 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00215047)
金古 善明 群馬大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (60302478)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝性不整脈症候群 / 次世代シークエンサー / 機能解析 |
研究実績の概要 |
遺伝性不整脈症候群は、同一の症候群でありながら原因遺伝子により病態は異なり、最適な治療法も異なることが指摘されている。また、遺伝子変異部位により特異な病態を呈することも知られている。さらに、同一遺伝子変異の保因者間でも表現型が異なり、多彩な表現型を呈することもある。一方、同一あるいは異なる症候群の遺伝子変異を複数有する者では、特異及び多彩な表現型を呈することから、最適な治療法は確立されていない。 我々は、ブルガダ症候群、発作性心房細動/心房粗動、洞機能不全と多彩な表現型を呈する患者において、SCN5AのdomainⅣ-segment1に新規変異 N1541Dを同定していたが、その機能解析を施行し、多彩な表現型を呈する分子機構を解明し得た。 また、心電図上著明なU波を有し、洞機能不全を合併し、労作時に心肺停止となったカテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)症例の家系に、KCNJ2 E118Dに加え、次世代シークエンサーにてRYR2 exon3の新規欠失変異を同定し得た。機能解析では、KCNJ2 E118Dは野生型KCNJ2と比べ発現電流に差は認められず、多彩な表現型を呈する分子機構の解明が待たれる。 さらに、安静時に心肺停止となり、エピネフリン負荷で著明なQT延長を認めた若年女性に、次世代シークエンサーにてSCN5A V1667I(QT延長症候群)、RYR K4392R(CPVT)を同定し得た。異なる症候群の遺伝子変異を併せ持つ症例であり、最適な治療法の確立が待たれる。 このように、我々は、遺伝性不整脈症候群において、単一あるいは複数の遺伝子変異により特異及び多彩な表現型がもたらされることを明らかにした。さらに、変異遺伝子の機能解析を行うことにより、それらがもたらす病態の分子機構を解明し、最適な治療法の開発につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブルガダ症候群、発作性心房細動/心房粗動、洞機能不全と多彩な表現型を呈する患者で同定されたSCN5A N1541D変異を作成し、培養細胞株発現系を用いパッチクランプ法でナトリウム電流 (INa)記録を行った。変異は野生型と比べ、steady-state inactivation curveの著明な過分極シフトを認め、それは、closed-state inactivationの増強に起因していた。また、activation curveの軽度の過分極シフトを認めた。本変異は、心筋の静止膜電位付近(-90mV)では高度のINa機能減弱をきたし、ブルガダ症候群(心室筋でのINa減弱)、発作性心房細動/心房粗動(心房筋のINa減弱により伝導遅延をきたしリエントリー回路を形成)、洞機能不全(exit block)をきたすと考えられた。 また、上記CPVT家系で同定されたKCNJ2 E118Dの機能解析を行った。培養細胞発現系を用い発現電流(IK1電流)を比較したが、野生型と変異で差はなかった。 さらに、SCN5A V1667I、RYR K4392Rを有する患者の家系調査の結果、父親は無症状だがQT延長を認めSCN5A V1667Iを有しており、一方、母親は無症状だがU波を認めRYR K4392Rを有していた。また、父方従弟にQT延長を認めた。家系調査を進め、遺伝子型と表現型の詳細な解析を行い、さらに、同定された変異遺伝子の機能解析を行うことにより、異なる複数の遺伝子変異がもたらす病態の分子機構を解明する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに同定されているSCN5A V1667Iなどの変異遺伝子を、培養細胞株に発現させ機能解析を行う。 我々は、有症候性ブルガダ症候群12例のエクソーム解析の結果、数個の新規候補遺伝子変異を同定している。家系調査を進め遺伝子型と表現型の詳細な解析を行い、さらに、同定された変異遺伝子の機能解析を行う。 次世代シークエンサー(72個の候補遺伝子パネル解析、及びエクソーム解析)の導入により、特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群の遺伝子変異同定率の向上が期待される。今後も次世代シークエンサーを用い、特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群の遺伝子解析を継続し、今後同定される変異遺伝子の機能解析を行い、病態の分子機構を解明する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新規の特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群患者の同定は少なく、臨床データの集積及び遺伝子解析に要する費用は予想より少ない額で行うことができた。 しかし、本年度末より特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群患者が多く同定されたため、次世代シークエンサーで使用する消耗品として使用したい。
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