研究課題
遺伝性不整脈症候群は、同一の症候群でありながら原因遺伝子により病態は異なり、最適な治療法も異なることが明らかになっている。一方、同一遺伝子の変異でも、変異部位により病態が異なり、特異及び多彩な表現型を呈することもあり、遺伝子変異部位特異的治療の確立が待たれている。我々は、ブルガダ症候群、洞不全症候群、上室性頻脈性不整脈と多彩な表現型を呈する2症例において、SCN5A N1541D変異(DⅣ-S1)とSCN5A R1632C変異(DⅣ-S4)を同定し、それらの詳細な機能解析を行った。両変異はナトリウムチャネル/電流 (Nav1.5)のclosed-state inactivation: CSIが増強しloss of functionをきたしたが、そのメカニズムは異なることが明らかとなった。多彩な表現型を呈する分子機構を解明し得たと同時に、Nav1.5の構造-機能連関に新たな知見をもたらした。また、安静時に心肺停止となり、エピネフリン負荷(EPT)で著明なQT延長を認めた若年女性に、SCN5A V1667I 変異(DⅣ-S5)を同定していたが、血縁者のカスケードスクリーニングを行い、他3人に同変異を同定した。通常、SCN5A変異に起因するLQT3では、EPTにより著明なQT延長をきたさないとされているが、本家系のSCN5A V1667Iキャリア全例でEPTにより著明なQT延長を認めた。このことから、LQT3におけるβ遮断薬治療の有効性には議論の余地があるが、SCN5A V1667Iキャリアではβ遮断薬が有効である可能性が高いと考えられた。我々は、遺伝性不整脈症候群では遺伝子変異部位により特異及び多彩な表現型がもたらされることを明らかにした。さらに、変異遺伝子の機能解析を行うことにより、病態の分子機構を解明し、遺伝子変異特異的治療の確立につながる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
ブルガダ症候群、洞不全症候群、上室性頻脈性不整脈と多彩な表現型を呈する患者で同定されたSCN5A N1541D (ND)変異(DⅣ-S1)の機能解析を継続した。NDは野生型と比べ、INaのsteady-state inactivation curve (SSIC)の著明な過分極シフトを認め、それは、closed-state inactivation:CSIの増強に起因していた。NDと、同様にSSICの著明な過分極シフトをきたしたR1632C (RC)変異(DⅣ-S4)についてもCSIのメカニズムを調べた。RCもCSIが増強し、CSIの速度は野生型と比べ軽度促進していたが、CSIからの回復の速度は野生型と比べ著明に遅延していた(tau-野生型: 1.90±0.16 ms, RC: 53.0±2.5 ms, P<0.01 vs 野生型)。一方、NDのCSIの速度は野生型と比べ著明に促進していたが(tau-野生型: 65.8±7.4 ms, ND: 13.7±1.1 ms, P<0.01 vs 野生型)、CSIからの回復の速度は野生型とほぼ同等であった。ND、RCはともにCSIの増強により著明なINa減弱をきたしたが、そのメカニズムは異なることが明らかとなった。Nav1.4(骨格筋タイプ)では、N1366(Nav1.5ではN1541に相当)とR1457(Nav1.5ではR1632に相当)は近接しており、チャネル活性化-不活性化プロセスで連結していると考えられていることから、Nav1.5のN1541とR1632でも同様と考えられる。両変異が異なるメカニズムによりCSIの増強をきたしたことは、Nav1.5の構造-機能連関に新たな知見をもたらした。また、CSI増強によるINa減弱により多彩な表現型を呈することが説明可能であり、遺伝子型-表現型の解明の一助となると考えられる。
LQTS家系で同定されたSCN5A V1667I、ブルガダ症候群家系で同定されたSCN5A W374Gを培養細胞株に発現させ、機能解析を開始している。SCN5A V1667Iについては、カテコラミン刺激でINaのgain of functionをきたすかどうか確認する。また、SCN5A W374Gについては、loss of functionのメカニズムはtrafficking defectsと考えられるが、メキシレチンがtrafficking defectsを改善するかどうか調べる予定である。次世代シークエンサーを用いた72個の候補遺伝子のパネル解析の結果、徐脈、QT延長を認める発端者にSCN4B F123Lを、徐脈、QT延長を認める発端者にGJA5 R342Xを、家族性房室ブロック家系の発端者にTRPM4 T677Iを同定している。これらの家系調査を進め遺伝子型と表現型のcosegregationが確認できたら、変異遺伝子の機能解析を行う。次世代シークエンサーの導入により、特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群の遺伝子変異同定率は向上したが、今後も次世代シークエンサーでの解析を継続し、同定される変異遺伝子の機能解析を行い、病態の分子機構を解明する予定である。
本年度は、新規の特異及び多彩な表現型を呈する遺伝性不整脈症候群患者の同定は前年度よりは多かったが予想よりは少なく、臨床データの集積及び遺伝子解析に要する費用は予想より若干少ない額で行うことができた。次年度使用額は、本年度の次世代シークエンサーで使用する消耗品として使用したい。
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