研究課題
本研究の目的は、循環器疾患における腸内細菌叢の役割を解明し、疾患の発症予測・治療介入に利用するための研究基盤を確立することである。冠動脈疾患患者から供与いただいた糞便サンプルから抽出したDNAを解析することで、冠動脈疾患(動脈硬化)の予防に関連する可能性のある腸内細菌種(Bacteroides vulgatesとBacteroides dorei)を同定しており、その菌を用いた治療介入法の探索と作用機序の解明を進めた。当該2菌種の菌株を培養し、動脈硬化モデルマウスに週5日投与すると、動脈硬化形成を抑制することを証明した。抗炎症的に作用することは間違いなさそうであるが、現在その詳細な機序に関して検討を行っている。分かった範囲の機序に関して、特許出願まで至っている。この2菌種に注目した研究を進めていく方針であり、企業との共同研究により独自の菌株の樹立にも成功している。治療法として、示したように微生物製剤として経口投与する方法と、ある食事成分を経口投与することでBacteroides菌が増加するような一種のプレバイオティックスを使用する方法が想定できる。両者の可能性を追究しながら、研究を推進する。心不全に関連する腸内細菌叢とその代謝産物の探索研究についても患者数の制約はあったが、当初の予定通りの研究は進められ、論文への投稿準備中である。心不全患者について、悪化した入院時と治療後の代償期の2ポイントで解析を行ったことで、同一の患者での腸内細菌叢と血中代謝物の変化も捉えることができて、当初の予定より幅の広い病状や病態における差異の解析も行うことができた。
1: 当初の計画以上に進展している
冠動脈疾患(動脈硬化)の研究に関しては、その予防に関連する可能性のある腸内細菌種Bacteroides vulgatesとBacteroides dorei菌を同定し、その菌株を培養して動物実験での成果を得ている。その菌自体を利用した治療介入の有用性と作用機序の解明を進めており、特許出願にまで至った。よって、研究の進展は予想よりも早いといえる。心不全に関連する研究でも、腸内細菌叢とその代謝産物の探索研究が終了しており、当初の予定より早く進んでいる。さらに、文部科学省科学研究費助成事業「先進ゲノム支援」からのサポートを得て、上記の患者糞便から抽出したDNAサンプルを使用して「ショットガンシーケンスによる腸内細菌メタゲノム解析」を進めている。より詳細な解析結果を次年度内に得られる予定で、今までの研究成果の検証とより詳細な解析結果を得ることで腸内細菌の機能遺伝子レベルの解析ができると考えている。
動脈硬化予防菌になる可能性のあるBacteroides vulgatesとBacteroides dorei菌の研究を中心に展開する。次年度内に、これらの菌の抗炎症作用の詳細な機序の解明を行う。この2菌種を微生物製剤として利用するための研究を進めていく方針であるが、そのための本科研費以外の研究費の獲得も考えていく。心不全関連研究については、病態に関連する腸内細菌種を数種類同定した。その一部の菌の代謝に関連した心不全への影響が想定できており、動物実験で因果関係を明らかにする。引き続き、一連の研究成果を、臨床現場で利用可能な「循環器疾患の発症予測法や予防法」の開発につなげるための研究基盤の確立を行う。
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