研究課題
肺高血圧症に対する種々の治療が進歩し、かつては有効な治療法がなく病態の改善も見 込めなかった患者についても、早期に発見し、適切な治療を行うことによってその予後を大幅に改善することが可能となってきた。しかし、その早期の診断方法や治療効果を経時的に判定する方法は、患者数の多い左心系の疾患に比べるとまだまだ遅れている。肺高血圧症とそれに伴う右心不全の診断および治療効果の判定に有用な方法を血中のバイオマーカーを中心に心エコーなどの画像診断と組み合わせて検討する計画である。対象は肺高血圧症を疑って当学附属病院で検査を受けた患者で、日本循環器学会の「肺高血圧症診療ガイドライン 2017年改訂版」に従って臨床的に診断・分類する。そのうち第1群の肺動脈性肺高血圧症(PAH)と第4群である慢性血栓 塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を主たる対象とする。第2群の左心系疾患に伴うものと第3群の呼吸器疾患に伴うもの、および第 5 群に分類される肺高血圧症 は、肺動脈以外の要因が大きく、治療もそれぞれ原疾患に対するものが主となるため、治療経過を追跡する対象とはしないが、診断時の血中バイオマーカーの測定と心エコーによる右心負 荷の評価は実施する。また、対照は当学附属病院循環器内科で治療を受けた肺高血圧症以外の患者とする。対象患者からはインフォームドコンセントのもとに血液サンプルの提供を受け、肺高血圧診断に役立つと考えられるバイオマーカー(後述)の測定を行い、BNP値など既存のマーカーと比較検討する。
2: おおむね順調に進展している
当学附属病院にて肺高血圧症と診断された患者については、ほぼ全員から研究についての同意を取得し、血液サンプルの保存と臨床検査データの記録を行なっている。バイオマーカー探索として、可溶性RAGE (receptor for advanced glycation endproducts)やHMGB1(High mobility group box protein 1/RAGEのリガンド) の検討のみならず、肺高血圧症に対しては新規のマーカー(後述)の検討も開始した。また、それらとは別に、糖尿病患者における肺高血圧症合併リスクについても検討を行った。
肺高血圧症の診断と治療効果判定に使用可能な血中バイオマーカーとして、肝硬変のマーカーとして知られる「7S domain of collagen type IV」が有用であるという仮説のもとに検証を進める。また、IV群である慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症患者への治療として、近年盛んに行われているバルーン肺動脈形成術においては、周術期の肺出血合併症が問題となっているが、画像診断としてのCTあるいはMRIにより、その合併症リスクが層別化ができないかどうかを検討する予定である。肺高血圧症は希少疾患(福島県内の指定難病の認定者数は、I群肺高血圧症が58人、IV群肺高血圧症が54人と少ない)であるため、引き続き関連病院とも連携して、対象患者のリクルートに努力する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件)
Int J Cardiol
巻: 258 ページ: 269-274
https://doi.org/10.1016/j.ijcard.2018.01.138