研究課題/領域番号 |
17K09523
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
松下 健一 杏林大学, 医学部, 准教授 (10317133)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 循環器 / 心不全 / 左室駆出分画 |
研究実績の概要 |
急性心不全の臨床研究を継続し、初年度から解析を行っていた急性心不全における慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD)合併の研究について、退院時のβ遮断薬投与がCKD合併群でのみ1年死亡率の有意な改善との関連を認め、退院時利尿薬投与もCKD合併群では1年死亡率の有意な改善に関連するのに対しCKD非合併群では有意な予後因子とはならないという興味深い研究成果を論文に纏め報告した (Matsushita K et al. Hypertens Res. 2019; 42(7): 1011-1018. doi: 10.1038/s41440-018-0204-4)。 また、左室収縮能保持性心不全は高齢者に多いことが知られているものの高齢者の左室収縮能保持性心不全のなかでの年齢に応じた臨床像の相違については未だ十分なデータはなく詳細が不明であるため、多施設共同研究に参加し、高齢者の左室収縮能保持性心不全の症例を65~84歳群と85歳以上群に分けて解析した。その結果、臨床像の比較では85歳以上群で高血圧症の合併が有意に高く、65~84歳群で冠動脈疾患、糖尿病、脂質異常症の合併と喫煙率が有意に高いという知見が得られた。30日以内の院内予後規定因子に関する多変量解析の結果では、85歳以上群では入院時収縮期血圧低値、血清クレアチニン高値、慢性閉塞性肺疾患の合併が独立した院内予後規定因子であり、65~84歳群では入院時収縮期血圧低値と肥満度指数低値が独立した院内予後規定因子であった。左室収縮能保持性心不全の病態に関して重要な研究成果であり、論文に纏め報告した (Matsushita K et al. J Am Geriatr Soc. 2019; 67(10): 2123-2128. doi: 10.1111/jgs.16050)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度から継続している臨床情報解析をさらに発展させ、研究成果を報告した。急性心不全における慢性腎臓病 (chronic kidney disease; CKD)合併の研究に関しては、退院時のβ遮断薬投与がCKD合併群でのみ1年死亡率の有意な改善との関連を認め、退院時利尿薬投与もCKD合併群では1年死亡率の有意な改善に関連するのに対しCKD非合併群では有意な予後因子とはならないという意義ある成果を報告した (Matsushita K et al. Hypertens Res. 2019; 42(7): 1011-1018. doi: 10.1038/s41440-018-0204-4)。 その他、多施設共同研究に参加して高齢者の左室収縮能保持性心不全の症例を65~84歳群と85歳以上群とで比較した解析では、臨床像の比較において85歳以上群で高血圧症の合併が有意に高く、65~84歳群で冠動脈疾患、糖尿病、脂質異常症の合併と喫煙率が有意に高いという結果であった。30日以内の院内予後規定因子に関する多変量解析の結果では、85歳以上群では入院時収縮期血圧低値、血清クレアチニン高値、慢性閉塞性肺疾患の合併が独立した院内予後規定因子であり、65~84歳群では入院時収縮期血圧低値と肥満度指数低値が独立した院内予後規定因子であった。左室収縮能保持性心不全の研究において重要な知見と考えられ、同成果の報告 (Matsushita K et al. J Am Geriatr Soc. 2019; 67(10): 2123-2128. doi: 10.1111/jgs.16050)とともにさらに研究を継続している。 しかし、研究代表者が翌年度初期に異動する予定となり、当初予期していなかった事態となったため進捗についてはやや遅れるという状況となった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き臨床データの詳細な解析を遂行する。本研究計画に掲げていた心エコー指標、治療薬を中心とした解析についてもさらに発展させ、最新の知見を含めて検討項目を細かく変更していきながら研究を施行する。左室収縮能保持性心不全では拡張障害が重要な役割を果たしていると考えられているが、不明な点が多い。現在心エコーで測定される僧帽弁輪速度(e’)あるいは左室流入血流速度(E)とe’の比E/e’は左室拡張障害を評価する有用な指標とされているが、問題点も指摘されている。本研究では左室収縮能保持性心不全患者の最新の知見を含めた心エコー指標と臨床データ・経過を分析し、左室収縮能保持性心不全における拡張障害指標の有用性・問題点を含めた詳細な検討を施行する。心不全治療薬については、新規治療薬を含めて入院前の服薬状況から入院中の治療薬、退院時の投薬内容まで詳細に解析する。退院日以降は、心不全による再入院の有無、心不全死の有無、非心臓死の有無を含めた経過・予後の解析も施行する。 さらに、エピジェネティックス研究、幹細胞研究へと研究を発展させる。現在、micro RNAの発現様式とエピジェネティックな転写制御の関連が非常に注目されているものの、不明な点も多い。左室収縮能保持性心不全のバイオマーカーとしての可能性、病態制御に関与している可能性のあるmicro RNAsについても研究し、間葉系幹細胞の治療効果も検討する。 未だ不明な点が多く複雑な病態である左室収縮能保持性心不全の機序・修飾因子を解明し、新たなリスク評価指標の確立、治療戦略へとつながる成果を得ることを目的として、これらの研究を継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:令和元年度に使用予定であった消耗品購入費用や成果発表・論文作成関連費用の一部を令和2年度に変更としたため。 使用計画:当初令和元年度の使用予定としていた消耗品購入費用や成果発表・論文作成関連費用の一部を令和2年度に変更として使用予定であり、さらに研究を発展させる。
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