急性心不全の臨床情報解析において、令和3年度は特に研究計画に掲げていた心エコー指標を中心とした解析を施行し、左室収縮能保持性心不全が39%を占める連続107例の急性心不全患者における心エコー指標と再入院率の関連について詳細に検討した。繰り返す心不全再入院を減らすことは心不全パンデミックと称される現代社会において喫緊の課題である。心不全患者における左房圧・肺動脈圧の上昇が心不全再入院の予測に重要であり、体内に肺動脈圧を連続測定できるシステムを植え込んで遠隔モニタリングを行った結果心不全再入院率が低下したという報告が注目されている。本研究では、アメリカ心エコー図学会およびヨーロッパ心血管画像学会の2016年に改訂されたガイドラインをもとに心エコー指標から左房圧・肺動脈圧の上昇の有無を推定し、左室収縮能保持性心不全を含む急性心不全患者における心エコー指標からの推定左房圧上昇の心不全再入院に対する重要性について解析を行った。その結果、1年以内の再入院率は心エコー指標による推定左房圧上昇群(33.3%)で非上昇群(7.5%)に比べて有意に高い(P = 0.003)という興味深い知見が得られた。さらに、多変量解析によって、左室収縮能保持性心不全を含む急性心不全患者における再入院の有意な危険因子は入院時ヘモグロビン低値、心エコー指標による推定左房圧上昇、退院時のレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬の非処方と同定され、心エコー指標による推定左房圧上昇が最もハザード比(危険度)の高い因子(ハザード比7.568)であった。本解析結果は、左室拡張障害から左房圧上昇をきたすと考えられている左室収縮能保持性心不全の病態に対して、心エコー指標による簡便な左房圧上昇推定の実臨床上での意義を示す重要な研究成果と考えられた。
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