研究実績の概要 |
当院において開心術を受けた成人症例のうち、組織採取の同意が得られた症例を対象とした。得られた左心耳から周囲の脂肪を処理し解析した。これまでの累計117例の解析を行った。うち術前より心房細動(AF)は22例、洞調律(SR)は95例であった。平均年齢はAF=67.3, SR=70.5, p=0.175、女性の割合: AF=11 (50.0%), AR=32 (33.7%), p=0.153と有意差はなかった。平均BMI: AF=23.2, SR=23.1, p=0.930、高血圧の合併:AF=11 (50.0%), SR=57 (60.0%), p=0.392、脂質異常症の合併AF=11 (50.0%), SR=56 (58.9%), p=0.445と有意差はなかった。また術前の腎機能や透析の有無に差は見られなかった。術前の血液データにも有意差はなかった。疾患背景として虚血性心疾患はSR群で有意に多く(AF=5 (22.7%), SR=53 (55.3%))一方で弁膜症はAF群で多かった(AF=17 (45.7%), SR=42 (44.2%)。なお術前の左房径はAFで有意に大きかった(AF=46.0 vs SR=38.3、p<0.01)。 左心耳周囲の脂肪組織の遺伝子発現の比較検討において、炎症性サイトカインであるTNFαの発現はAF群で高い傾向が見られたが有意差はなく(AF=1.49 vs SR=1.25, p=0.312)、IL-1β (AF=1.8 vs SR=2.1, p=0.806), IL-6 (AF=5.7 vs SR=6.1, p=0.697), IL-10 (AF=3.1 vs SR=3.6, p=0.406), IL-17 (AF=4.1 vs SR=5.8, p=0.212), IL-33 (AF=11.8 vs SR=11.0, p=0.620)と差は見られなかった。一方でIL-2はAF=158.9 vs SR=58.1, p<0.01とAFで有意に高かった。さらにマクロファージのマーカーのうちCD11cは差がなかったがCD68およびCD206はAF群で高い傾向が見られた。ミトコンドリア関連遺伝子であるNRF1、PGC1α、NDUFB8、ND6とも有意差は認めなかった(NRF1:AF=3.0 vs SR=3.0, p=0.969、PGC1α:AF=1.2 vs SR=1.3, p=0.724 NDUFB8:AF=44.6 vs SR=44.5, p=0.911, ND6:AF=28.0 vs SR=25.1, p=0.310)。またICU滞在時間に差は認めなかった(AF=8.5 vs SR=7.5[時間], p=0.437)。
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