研究課題/領域番号 |
17K09529
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山本 平 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (70301504)
|
研究分担者 |
松下 訓 順天堂大学, 医学部, 准教授 (20407315)
嶋田 晶江 順天堂大学, 医学部, 助教 (20439326)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 心房細動 / 脂肪組織 / 炎症 |
研究実績の概要 |
当院において開心術を受けた成人症例の左心耳周囲脂肪を解析、術後心房細動(poAF, n=101)を起こした群とそうでない群(poSR, n=178)で比較検討した。なお術前からAFの症例は除外した。年齢はpoSR vs poAF=62.1 vs 70.1 [歳](p <0.001)、男女差、平均BMIに差はなかった。また術前の合併症や透析の有無にも差は見られなかったが、血清クレアチニンはpoAFで高い傾向であり(0.9 vs 1.2 [mg/dL], p=0.106)、eGFRはpoAF群で有意に低下していた(77.3 vs 68.1, p <0.01)。術前心エコーにおいて左房径はpoSR vs poAF=37.8 vs 40.5 [mm](p <0.01)とpoAFで有意に拡大していた。 左心耳周囲の脂肪組織の遺伝子発現の比較検討において、線維化因子のCollagen-1: poSR vs poAF=3.5 vs 4.3 [-fold](p=0.329)と差はなくTGFb1-3のいずれも差はなかった。炎症性サイトカインであるIL-1βはpoSR vs poAF=0.41 vs 0.26(p=0.113)、TNFα;poSR vs poAF=1.35 vs 1.33(p=0.968)、IL-2;poSR vs poAF=1.00 vs 0.48(p=0.263)、IL-6;poSR vs poAF=1.30 vs 0.98(p=0.380)といずれも有意差はなかったが、poAF群で低い傾向がみられた。ミトコンドリア関連遺伝子にはいずれも有意差は認めなかった(NRF1:poSR vs poAF=2.68 vs 2.10(p=0.341)、PGC1α;poSR vs poAF=0.41 vs 0.26(p=0.113)、NDUFB8:poSR vs poAF=4.73 vs 4.96(p=0.614)、ND6:poSR vs poAF=10.8 vs 11.3(p=0.470))。 一方で左心耳の心筋組織ではIL-1βはpoSR vs poAF=0.79 vs 1.69(p <0.05)、TNF-α;poSR vs poAF=1.04 vs 0.99(p=0.776)、IL-2;poSR vs poAF=0.94 vs 1.41(p=0.349)、IL-6;poSR vs poAF=0.72 vs 0.78(p=0.833)とTNF-α以外はpoAFで高い傾向がみられており、臓器と周囲脂肪との間に差があることが示された。なおミトコンドリア関係因子にはいずれも発現の差は認めなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
手術時における脂肪組織の収集は同意を含めてほぼ予定通り収集できている。またこれまでのところ有害事象も認めていない。脂肪組織からのRNA抽出およびcDNAの作成も、一部の組織で抽出量が十分でないものも認めたがほとんどの組織で良好に抽出できた。またプライマも再検証を行い良好かつ再現性のある増幅効果が得られている。 一方で解析結果は予想に反して炎症サイトカインの遺伝子発現およびミトコンドリア関連遺伝子の発現にこれまでのところ有意差はみられていない。これまでの発現の値から推測するに、今後症例を増やしても有意差はないものと考えられる。この点が今後の検討課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討では糖尿病の有無に焦点を絞って解析を行っていた。しかしながら未治療のものやコントロール不良のもの、またインスリンなど治療によっても背景のばらつきがあり、これらの背景の相違が脂肪の炎症性サイトカインの発現に影響していたものと考えられる。昨年度までは疾患背景が虚血性心疾患、大動脈弁膜症、僧帽弁膜症が混在していたことから、今後は疾患背景別に層別解析を進めた。さらに炎症が引き起こす病態として心房細動に着目して解析を行った。すると脂肪と炎症との間に興味深い知見が得られている。今後は糖尿病が脂肪の炎症に与える影響と、組織の変化についてより詳細な検討を行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はこれまで作成した試料を用いてすでに行っていたPCRの結果の解析と並行して研究を行い、結果がまとまっていないため学会発表などの出張に使用しなかった分、当初の予定よりもやや支出が少なかったため。次年度は症例の追加解析用の保存液や試薬などの購入に充てる予定である。
|