研究課題
昨年に引き続き、虚血再灌流傷害急性期の糖利用促進の中心的因子の一つであるSGLTに関して、糖尿病・肥満モデルを用いて、その活性化の病態生理学的意義について検討を行った。高脂肪食12週間投与(HFD)マウスを作成し、ランゲンドルフ虚血再灌流実験を施行したところ、HFDで虚血再灌流後の心機能が有意に低下した。非特異的SGLT阻害薬であるフロリジン投与により、心機能のリカバリーはより顕著に低下し、著明な心筋傷害を伴った。受動輸送型のGLUT4の発現は、HFDマウス心において、虚血前から低下しており、さらに虚血再灌流後の膜上への移動も抑制されていた(インスリン抵抗性)。対照的に、SGLT1の膜上発現は、HFDの有無にかかわらず、虚血再灌流中一貫して、発現レベルは一定であった。このことから、GLUT4の機能が障害されているようなインスリン抵抗性状態下では、虚血耐性を示す心臓SGLT1への依存度がより高くなり、代償性に糖利用を促進することで、心保護的に働くことがわかった。実際、HFDマウス心では虚血再灌流後の心筋糖取り込み亢進反応が抑制されていたが、これにフロリジンを投与すると、糖取り込みは劇的に抑制されることがわかった。一方、選択的SGLT2阻害薬の直接的な心臓への作用に関しても検討を行った。SGLT2は、少なくとも正常並びに糖尿病状態の心臓には発現していないことを、HFDマウス心で確認した。さらに、選択的SGLT2阻害薬の投与は、HFDマウス心であっても、虚血再灌流後の心機能回復、心筋傷害に有意な影響を及ぼさなかった。以上より、虚血再灌流急性期において、糖尿病や肥満などによるインスリン抵抗性状態下にある心臓の糖利用については、GLUT4を代償してSGLT1が重要な役割を果たす一方、少なくとも心臓局所に対する短期的なSGLT2阻害は、悪影響を及ぼさないことを確認した。
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