研究課題
早期再分極症候群は、心電図の下側壁誘導に早期再分極(J波)を有し、心室細動による突然死を来す疾患である。診断の基礎となる心電図指標である早期再分極パターンは、健常人の約10%に認められる比較的ありふれた所見でありながら、心室細動の発生を予測する指標や有効な治療について不明な点が多いため、臨床の現場ではいかに高リスク例を抽出し、治療介入を行うかの判断に難渋するケースに多々遭遇する。また、早期再分極症候群の正確な診断自体が困難で、これまでに報告されている早期再分極症候群自体が、Brugada症候群や、胸痛を伴わずに心室細動に移行した冠攣縮性狭心症を含んだ疾患群であり、従来報告されている臨床的特徴や予後予測指標が偽りの指標である可能性も指摘されていた。研究者らは初年度に、早期再分極を有する特発性心室細動例における冠攣縮性狭心症の頻度を検討した。冠攣縮性狭心症の誘発試験を行うことで、早期再分極症候群と診断されうる症例の約40%が冠攣縮性狭心症と診断された。さらに冠攣縮性狭心症の40%は胸痛を伴わずに心室細動を発症していたことが明らかとなった(J Am Heart Assoc. 2018)。正確な早期再分極症候群の診断における冠攣縮性狭心症の誘発試験の重要性を示すことができた。次に、国内の不整脈診療の中心的施設から集積した真の早期再分極症候群49例において、後ろ向きに心室細動再発の予測因子を検討し、新たなリスク指標について検討した。従来早期再分極症候群における予後予測因子として報告されていた高い波高のJ波や、J波に引き続くST部分の評価よりむしろ、広範な誘導に広がるJ波の存在が心室細動再発の予測因子となることが明らかとなった(Heart 2020)。早期再分極症候群の新たなリスク層別法を示したという点で、本研究の臨床的意義は高いものと考えられる。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Heart
巻: 106 ページ: 299-306
10.1136/heartjnl-2019-315007