研究課題
本研究課題の目的は、国立循環器病研究センターにおける重症心不全症例の治療経験に基づき、2次性心筋症や希少心筋疾患を基礎とする重症心不全症例の予後規定因子についてのエビデンスを創出することであるとともに、このような疾患の治療戦略(主に補助人工心臓治療、心臓移植治療の適応の可否)を開発することである。上記研究目的に基づき、本研究課題は以下の項目において記載のような研究実績を得た。1.筋ジストロフィー:本疾患に関しては以前に申請者が発表していた論文に基づき、2018年には日本心臓病学会にて「神経・筋疾患合併心不全に対する植込み型補助人工心臓治療」と題するシンポジウム発表を行った。また2019年には国立循環器病研究センターにて心臓移植治療を受けた筋ジストロフィー症例の臨床経過を移植後の筋力改善の視点からまとめた原著論文を発表した(題名:Heart Transplantation Ameliorates Ambulation Capacity in Patients With Muscular Dystrophy - An Analysis of 9 Cases)。さらには本論文に基づき同年の日本神経学会シンポジウムにて「Cardiac Transplantation in Patients with Muscular Dystrophy」と題する発表を行った。2.ダノン病に対する補助人工心臓治療の経験をまとめた症例報告「Left Ventricular Assist Device Implantation in an Adult Male With Danon Disease 」を発表した。このように希少心筋疾患である筋ジストロフィー、ダノン病などについての症例・原著報告ならびに学会発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示すように希少2次性心筋疾患である筋ジストロフィーに関しては心臓移植治療後の経過をまとめた原著論文を発表するに至った。本発表は以前の人工心臓治療後の経過をまとめた報告と合わせ、申請者の専門領域外である神経内科医師にも興味を持たれる内容であったことからその後の日本神経学会でのシンポジウム発表につながっている。同シンポジウムには申請者が症例報告にまとめたダノン病の診療に協力した神経内科医師も参加しており、申請者の研究が循環器領域内外に影響を与えつつあることが確認できた。このように筋ジストロフィーやダノン病といった疾患領域では当初の計画以上に進展しているが、本研究課題においてもう一つの主要な対象疾患である劇症型心筋炎について立案している多施設でのレジストリー研究では研究計画立案以後の症例登録にやや滞っている。これは当初本研究の立案時には使用されてなかった補助循環器機器の新規承認などいくつかの点が関わっており、現在研究経過の見直しを行っているところである。しかしながら心筋炎に関しては単施設研究ではあるものの、巨細胞性心筋炎に対する治療についてまとめた原著論文を発表しており、心筋炎領域においても研究課題の進展は認められる。「Immunosuppression for the Treatment of Giant Cell Myocarditis - A Single-Center Experience in Japan」と題する本論文は心筋炎の中でも希少かつ予後不良である巨細胞性心筋炎6症例における当院の治療経験をまとめている。希少疾患である本疾患に対する機械的循環補助を併用した免疫修飾療法の効果を詳細に検討した本報告はこれまでにない貴重な報告として評価されている。以上より本研究課題の進捗状況に関して総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
本研究課題の主題は希少心筋疾患を基礎疾患とす重症心不全症例の診療指針を確立することであり、現時点で一定の成果を得ている筋ジストロフィー、ダノン病、心筋炎以外の希少心筋疾患に対してもこれまでの同様のアプローチにて研究を遂行する。今後の研究課題の推進方策について、対象となる疾患およびその研究計画の具体案を以下に列挙する。1.筋ジストロフィー:これまでに論文報告した症例を含め、現在さらにその症例数は増加している。またこれまではBecker型筋ジストロフィーを中心に報告してきたが、筋強直性ジストロフィーやエメリードレフィス型筋ジストロフィーなどの疾患も経験しており、今後は病型別の臨床経過に違いについての解析なども行う。2.ダノン病:これまでの経験から女性の肥大型心筋症、拡張相肥大型心筋症と診断される症例に本疾患が隠れていることが明らかになってきた。新規症例の同定とともに、過去に肥大型心筋症と診断された女性患者についても移植後摘出心などの検体を追加解析することとしている。3.心筋炎:上記に記載した多施設レジストリーについての研究を遂行する。4.その他:心サルコイドーシス、不整脈源生右室心筋症については一定の症例数が蓄積されてきた。なかには補助人工心臓装着を経て移植へと到達した症例も数例含まれている。特に新サルコイドーシスについては移植後の再発なども臨床上の問題として議論されているため、当院にて移植に到達した症例を含めてそれら疾患の臨床経過の詳細をまとめていくこととしている。
COVID-19の世界的流行のため当初参加予定であった国内外の学会中止があり、学会参加旅費として使用できなくなったため。今後、同次年度使用額は学会参加旅費とともに論文作成費用などに使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Circulation Journal
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