研究課題
好中球エラスターゼは好中球内でヒストンを分解し、クロマチン凝集を促進することでNETs産生に重要な働きを示し、好中球エラスターゼ欠損マウス(Elane遺伝子欠損マウス)はNETsを産生しないことが報告されている(J Cell Biol 2010)。このNETs形成不全マウスと野生型マウスに心筋梗塞を作成し、比較検討を行った。NETs形成不全マウスは野生型に比べて心筋梗塞後の心機能が改善し、生存率も上昇していた。また、NETs形成不全マウスでは野生型と比較して、梗塞サイズが減少していた。さらに、心筋梗塞後のアポトーシスをTUNEL染色で検討したところ、梗塞心筋と非梗塞心筋の境界部位において、野生型マウスの方がNETs形成不全マウスよりTUNEL陽性のアポトーシスに陥った細胞が多く認められた。以上より、Elane遺伝子欠損によりで境界部位のアポトーシスが抑制されていることが梗塞サイズの減少に繋がったことが推察された。また、野生型に比べNETs形成不全マウスでは梗塞部位への白血球 (CD45+細胞)の浸潤が有意に減少し、特に好中球(CD11b+Ly6Ghigh細胞)の減少が示された。また、マクロファージの中で炎症性のM1マクロファージと抗炎症性のM2マクロファージの割合を比較したところ、KOマウスでは炎症性のM1(F4/80+CD11b+CD206-)マクロファージが減少し、M1/M2比が減少していた。同様に好中球エラスターゼ阻害剤投与によっても心筋梗塞後の心室リモデリングが改善され、生存率が上昇した。以上より、NETs形成不全によって急性期の過剰な炎症反応が抑制され、虚血部位におけるアポトーシスが減少し、梗塞サイズの減少や心筋梗塞後の生存率、心機能が改善されることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
実験結果が順調に得られており、研究はおおむね順調に進展している。
インスリンやインスリン様成長因子1(IGF-1)は心筋細胞に発現するIGF-1受容体に作用し、受容体に内蔵されたチロシンキナーゼが活性化し、インスリン受容体基質1(insulin receptor substrate-1; IRS-1)のリン酸化を介してAktを活性化する。活性化したAktは心筋細胞においてアポトーシスの抑制、蛋白合成促進、生存に必要なシグナル物質の転写促進、DNA合成促進などの作用により、さまざまなストレスに対する抵抗性を発揮する。上述のように、NET形成不全により心筋梗塞後の予後が改善した理由として、心筋細胞の生存に与える影響を考え、好中球エラスターゼによるIRS-1の分解とAktシグナルへの影響に着目して研究を推進していく。
他研究者からの譲渡や他研究費からの購入により、当該研究費で購入予定であった消耗品への支出が不要であったものが生じたため、次年度使用額が生じた。次年度は、消耗品の購入、国際学会、国内学会での発表および情報収集のために使用する。
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Japanese Journal of Clinical Oncology
巻: 48 ページ: 7~12
10.1093/jjco/hyx154