研究課題
血行動態的負荷の増加によって心筋細胞肥大や間質線維化(構造リモデリング)が誘導される。心臓の構造リモデリングの分子機序に関して多くの研究がなされてきたが、エネルギー代謝変換(代謝リモデリング)の調節経路、および構造リモデリングと代謝リモデリングとの統合的な調節メカニズムについてはほとんど不明であった。申請者らは、脂肪酸取り込み障害と代償的なグルコース取り込みの亢進を呈するCD36ノックアウト(CD36KO)マウスに大動脈縮窄(TAC)による心肥大モデルを作成し、これらの疑問点にアプローチした。CD36KO-TACマウスでは、心収縮は低下し、心筋肥大と間質線維化は野生型より増強した。メタボローム・フラクソーム解析を用いて、肥大心筋では、高エネルギーリン酸(ATPとホスフォクレアチン)産生が低下しており、また、取り込まれたグルコースがTCA回路経由によるATP産生よりも、アミノ酸・脂質・核酸の生合成に優先的に利用されることを明らかにした。次に、この知見をさらに発展させ、心肥大が誘導される際、心筋細胞の細胞膜を構成する脂質二重層のグリセロリン脂質の脂肪酸が、「どこから供給されるのか(外因性か内因性か)」、「圧負荷病態下でその供給源が変化するのか」、「それらが障害された場合、心肥大形成・心不全進展にどのように影響するのか」について、外因性脂肪酸取り込み障害マウス・内因性脂肪酸合成障害マウス・外因性脂肪酸取り込み障害+内因性脂肪酸合成障害マウスを用いて検討中である。
3: やや遅れている
外因性脂肪酸取り込み障害モデルとしてCD36 KOマウスを準備した(全身KOマウス)。内因性脂肪酸合成障害モデルとして脂肪酸合成酵素(FASN)KOマウスを用意した(タモキシフェン誘導性の心臓特異的cFASN KOマウス)。両者の障害モデルとして、外因性取り込み障害モデルと内因性合成障害モデルを交配したマウス(CD36KO+cFASN KO)を作成した。交配が完了し、これらのマウスの心臓を(a)負荷のない状態と(b)TACによる圧負荷モデルを作成し、心機能を評価した。(a)負荷のない状態で6か月間観察したが、CD36KO, cFASN KO, CD36KO+cFASNKOともに、明らかな心臓の形態異常や心機能異常は認められなかった。(b)圧負荷モデル作成後、8週間心機能を評価した。CD36KOマウスでこれまでの観察と同様に心機能が低下し、CD36KO+cFASNKOでは、心機能がさらに低下した。cFASN KOでは、心機能低下傾向が認められるものの、コントロール群と比べて、有意差は認められなかった。現在、摘出した心臓の形態変化・タンパク発現変化・代謝変化・脂質二重層の組成変化について解析中である。4群のマウスの交配と、再現性のある圧負荷モデル作成に時間を要したため、予定よりやや遅延している。
長鎖脂肪酸は、ATP産生のためのエネルギー基質として利用されるほか、脂質二重層(細胞膜、細胞内小器官)のグリセロリン脂質の主成分として利用される。今後の研究では、心機能変化のみられた上記のマウスを用いて、 (a)負荷のない場合、(b)TACによる圧負荷を加えた場合、組織変化・単離心筋形態・代謝・脂質二重層の脂質組成にどのような変化がみられるか、を明らかにする。<追加評価項目>心肥大・線維化の組織学的評価、メタボローム解析、18F-FDG(グルコーストレーサー)/125I-BMIPP(脂肪酸トレーサー)を用いた取り込み実験、代謝・心肥大・線維化などに関する遺伝子群のタンパク発現・mRNA発現の変化、酸化ストレス・シグナル伝達の指標の発現変化を比較検討する。上記に加えて、本研究で最も重要な脂質成分の解析を実施する。脂質二重層のグリセロリン脂質(PC/PS/PE/PIの各クラスのリン脂質およびそれぞれのリゾ体)の組成(特にsn-1位とsn-2位の脂肪酸組成)と細胞内のアシルCoA組成がどのように変化するかを中心に解析する。脂肪酸取り込み障害や脂肪酸合成障害があるとアシルCoAの組成変化が生じ、そのアシルCoの組成変化がそのまま脂質二重層のグリセロリン脂質の組成変化に関連すると予想している。
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