研究課題/領域番号 |
17K09573
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
海野 一雅 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (40709119)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 心筋分裂 / 生後心筋分化 / 核内受容体 / レチノイン酸 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む哺乳類の成体心筋細胞は最終分化した細胞であり、再性能や分裂能はないものと考えられてきた。これに対し、生後1-2日のマウス心尖部切除を行っても、ほぼ完全な状態に再生することが示されている。この時期に起こる急激な心筋細胞の表現型の変化には、エピゲノム修飾の過程が関与していると予想されるが、その詳細なメカニズムは明らかでない。そこで今回我々は核内受容体とそれに関連する分子に注目した。 我々は、前年度までに核内受容体の中でもレチノイン酸受容体(RAR)が新生児心臓の最終分化に関係していることを確認した。さらに、その中でもレチノイン酸(RA)合成の律速段階酵素であるAldh1a2の発現が新生児期に一過性に上昇することを確認した。この遺伝子の発現上昇は低酸素環境下では見られず、更にその様な環境では心筋分裂能が遷延することを確認した。以上より、分娩の前後で変化する心臓組織酸素分圧刺激がAldh1a2の発現に関与していると考えた。Aldh1a2の転写開始点の100-150bp上流には種を超えてHif1結合モチーフが存在しており、酸素分圧の変化をHifが媒介し、生後一過性のAldh1a2発現上昇を起こしていると仮説した。実際にsiRNAを用いてHif1aをノックダウンすると低酸素環境下でもAldh1a2の発現が上昇することから、生体ではAldh1a2の発現がHif1aにより抑制的に制御されていると考えられた。この様に、Aldh1a2の一過性発現上昇によりRAシグナルが活性化されることで心筋分裂能が失われる可能性が高い。 すでにAldh1a2の心臓特異的タモキシフェン誘導性ノックアウトマウスを作成済みであり、心筋凍結障害モデルにて心筋再生能の評価を行っている。さらに、Tn5トランスポゾンを用いたATACシークエンスを行い、RAシグナルとクロマチン構造変化の関係について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究申請時に想定した実験の約70%は終了している。一旦作成した遺伝子改変マウスに不具合があることが判明したため、改めて遺伝子改変マウスを準備するのに時間を要したため、その分研究が遅れているが、最終年度序盤に準備が完了するので随時実験が開始できるものと考えている。 注目している遺伝子発現調節メカニズムについては約50%ほどの進捗だが、今後の実験方針も明確になっており、数か月のうちに終了できる見通しとなっている。 最終年度後半には論文投稿が出来るように鋭意実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はすでに70%程度は終了しているので、申請課題最終年度では残りの実験を行い、論文作成をする。現時点では変更を必要とする事象は起こっていないので、計画通りに研究を遂行する。 まず、最終年度前半までに、準備した遺伝子改変マウスを用いて心筋分裂能を評価し、これまでの研究結果と齟齬が無いかを評価する。さらに、機能解析を同時に推進する。最終年度後半には論文投稿を開始し、本課題の研究期間内に論文発表を目指す。
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