研究課題
ヒトを含む哺乳類の成体心筋細胞は最終分化した細胞であり、再性能や分裂能はないものと考えられてきた。これに対し、生後1-2日のマウス心尖部を切除すると、ほぼ完全な状態に再生することが示されている。この時期に起こる急激な心筋細胞の表現型の変化には、エピゲノム修飾の過程が関与していると予想されるが、そのメカニズムは明らかではない。研究代表者らは、前年度までに核内受容体の中でもレチノイン酸受容体(RAR)が新生児心臓の最終分化に関係していることを確認した。さらに、その中でもレチノイン酸(RA)合成の律速段階酵素であるAldh1a2の発現が新生児期に一過性に上昇することを確認した。そこで、Aldh1a2の心臓特異的タモキシフェン誘導性ノックアウトマウスを用い、新生児期のAldh1a2の上昇を抑えることで、心筋細胞の分裂能が遷延することを確認した。さらにAldh1a2発現上昇は低酸素環境下では見られず、その様な環境では心筋分裂能が遷延することを確認した。Aldh1a2 の転写開始点の100-150bp上流には種を超えてHif1結合モチーフが存在しており、実際にsiRNAを用いてHif1aをノックダウンすると低酸素環境下でもAldh1a2の発現が上昇することから、生体ではAldh1a2の発現がHif1aにより抑制的に制御されていると考えられた。Aldh1a2発現が生後数日でピークに達しその後低下するメカニズムとしてこの遺伝子の転写調節領域のクロマチン構造変化が関与していると考え、Tn5トランスポゾンを用いたATACシークエンスを行いこれを確認した。以上より、生後上昇する心臓組織酸素分圧をHif1aが感知し、Aldh1a2遺伝子発現を促進することでレチノイン酸シグナルが活性化され、心筋細胞のフェノタイプが変化することで分裂能が失われることが示唆された。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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