超高齢化社会を迎え老化の抑制による健康寿命の延長は喫緊の課題である。加齢に伴う心肺系の機能低下は健康寿命短縮の三大原因の一つであり、中でも心機能低下は非高齢者の場合と異なるaging-related cardiomyopathy(ARC)という特有の病態であると認識されつつある。我々はこれまでの研究で、β2アドレナリン受容体の遺伝子欠失マウス(β2ARKO)を用いて、心臓の線維芽細胞のβ2アドレナリン受容体がパラクライン作用を介して心肥大や心臓の線維化を制御している事を報告してきた。老化の促進要因として慢性的に炎症が持続する炎症老化(inflammaging)の概念が注目されている。特に老化細胞が炎症性サイトカインを分泌するSenescence-associated secreted phenotype (SASP)と呼ばれる現象が注目されている。 今回の研究において、「心線維芽細胞における交感神経―炎症連関が慢性炎症持続の基盤となり、ARCを形成する」とする仮説を検証した。方法として、ARCの表現型を、β2ARKOを用いて検討した。その結果、予想に反して、β2ARKOはコントロールと比較して寿命の短縮を認めた。さらに、心収縮能に有意差を認めなかったが、拡張能の指標は有意に低下していた。心肥大はβ2ARKOにおいて悪化する傾向もあったが、有意差を認めなかった。さらに、心臓の表現型について解析を進め、加齢に伴う心臓の線維化がβ2ARKOにおいてコントロールに比べて増加する傾向を認めた。一方、SASPについて検討したところ、老化マウスにおいて有意な差を認めなかった。さらに、肝機能や腎機能の低下も認めなかった。以上の結果は、当初の仮設と異なり、β2ARがARCに対して線維化を伴う心拡張能を介して保護的に作用している可能性を示している。
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