研究課題
心臓は絶え間ない自律拍動により莫大なATPを産生し消費する。虚血心筋では、ATPの供給と需要のバランスが崩れ心不全発症の大きな要因となる。しかし虚血時において直接的にATP産生を増強して臓器保護を促すような治療法は未だ開発されていない。近年我々はミトコンドリアATP産生を増強させる因子としてG0S2を同定した。またG0S2タンパク質はその寿命が短く、ユビキチンプロテアソームによって制御されていることを見出した。そのタンパク質寿命を延長させることによってATP産生の増強を可能にする創薬候補化合物の同定は虚血性心疾患の新たな治療法の開発につながると考え、G0S2タンパク質分解を抑制する薬剤の開発を目的とする。平成30年度では、前年度に同定したヒット化合物の細胞レベルでの薬効評価を進めた。前年度のスクリーニングで同定した複数のヒット化合物について心筋細胞を用いた細胞毒性評価を行ったところ、強い毒性を認めた。セミインタクト細胞を用いたATP産生能の評価や生細胞でのATP濃度変化を検討したが、この結果を裏付けるようにヒット化合物の処理はむしろATP産生を低下させる結果となった。そこでヒット化合物の類縁構造体をin silicoで探索し、より低毒性かつG0S2タンパク質分解活性をもつ化合物をスクリーニングした。いくつかの低毒性高活性化合物を取得している。これらのATP産生について今後検討を進める予定である。また化合物の標的を同定する検討途中であるが、その過程でG0S2タンパク質分解メカニズムの解明につながる新たな知見を得ることとなり、その生化学的解析を進めた。これらの成果を論文にまとめ現在投稿中である。
3: やや遅れている
本年度最初の目的であった、ヒット化合物のATP産生増強効果が強い毒性のために見られず、さらなる構造類縁体を探索することになったため、細胞でのPOCを取るまでに時間を要している。しかしながら、探索した構造類縁体の中から低毒性高活性の化合物を取得することができており、細胞でのPOCを検討する次のステップに進められている。
H31年度は、まず新たに取得した低毒性高活性のヒット化合物がATP産生能を増強させるかについてさらに検討し、構造活性相関を得ることに努める。方法としては、これまでに開発したATP感受性FRETプローブを用いたアッセイおよび、セミインタクト細胞を用いたATP産生速度測定系を用いる。さらには細胞生存率への影響も構造活性相関ともに検討する。これらの構造活性相関を得られたヒット化合物がゼブラフィッシュの虚血モデルにおける効果を検討する。またミトコンドリア患者細胞を用いたアッセイ系も構築できており、こちらの病態モデルでも薬効評価を進めていく予定である。
本研究で同定したヒット化合物の強い細胞毒性が見られたので、類縁化合物をin silicoで探索し低毒性高活性の化合物を同定する作業を進めたため、当該年度内に予定していたヒット化合物の標的タンパク質同定を目的とした生化学実験を一部次年度にも行うこととした。そのために次年度使用額が発生した。当初の予定より時間を要している標的分子探索およびミトコンドリア患者細胞やゼブラフィッシュを用いたモデル実験を次年度に行う予定としている。おおむね研究の進捗には影響せず次年度は計画書通りに研究を遂行する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Circulation
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1161/CIRCULATIONAHA.118.036761.