研究課題
化学療法剤であるドキソルビシン(DOX)は、ドキソルビシン誘発性心筋症(DIC)と呼ばれる心臓毒性を誘発し、予後不良とされている。一方で、この心毒性の根底にある分子メカニズムは解明されていなかった。さらに、特にミトコンドリアで、フェロトーシスの内因性制御因子であるGPx4がmRNAレベルで抑制され、過酸化脂質の蓄積を伴った。これらの心臓障害は、GPx4過剰発現マウスで改善され、GPx4ヘテロ欠失マウスで悪化し、脂質過酸化もGPx4過剰発現により低下し、欠失マウスにより増加した。培養心筋細胞では、ミトコンドリアでのGPx4過剰発現またはミトコンドリアのFe2 +をターゲットとする鉄キレート化により、DOX誘発性フェロトーシスが抑制された。以上のことから、DOXがミトコンドリアにおいてフェロトーシスを誘発したことが示された。さらに、フェロトーシス阻害剤であるferrostatin-1およびアポトーシス阻害剤であるzVAD-FMKは、それぞれ単独では細胞死を部分的に抑制し、併用してフェロトーシスならびにアポトーシスを同時に阻害することで、DOX誘発心筋細胞死は完全に抑制された。以上のことから、DOXがグルタチオンペルオキシダーゼ4(GPx4)を発現抑制し、ミトコンドリアのDOX-Fe2 +複合体を介して過剰な脂質過酸化を誘導し、ミトコンドリア依存性のフェロトーシスを引き起こし、DOX心毒性の主な原因となっていることを明らかにした。ミトコンドリアにおけるフェロトーシスは、今後DOX誘発性心筋症の新たな治療ターゲットでと考えられる。過剰なミトコンドリアにおける脂質過酸化反応の具体的な脂質過酸化物の同定およびDOXによるGPX4発現抑制の分子機序解明は今後の課題である。
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