研究課題/領域番号 |
17K09583
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中村 太志 熊本大学, 病院, 准教授 (60582947)
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研究分担者 |
泉家 康宏 熊本大学, 病院, 非常勤診療医師 (10515414)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プロテインキナーゼG / システインレドックス / 病的心肥大 |
研究実績の概要 |
サイクリックGMP(cGMP)のレベル増加とそのエフェクター分子であるcGMP依存性プロテインキナーゼ(PKG)の活性化を介す細胞内シグナル伝達は、心不全や高血圧に対する有用な治療標的として期待されている。心血管組織に内在性に発現するアイソザイムPKG1αは、cGMPの結合で活性化するホモ二量体のリン酸化酵素である。しかし、N端近傍に位置する42番目のシステイン(C42)が酸化すると、隣接する分子間にジスルフィド架橋(PKG1αジスルフィド二量体)が形成されることでもcGMP非依存性に活性化される代替的な調節機構が報告され、心血管での意義が注目されている。筆者は、ヒトの高血圧性不全心やマウスの圧負荷誘導性肥大心、高頻拍ペーシングで誘発される犬の不全心において、PKG1αのジスルフィド二量体が心筋細胞で有意に増加することを初めて明らかにした。また、PKG活性化による本来の抗肥大作用が、酵素活性レベルに関わらず、C42の酸化修飾で減弱する新たな制御機構を見出し(Nakamura T. et al, J Clin Invest. 2015)、細胞内局在変化と基質相互作用変化を介す新規レドックス制御機構の応用研究を進めている。さらに、我々の研究により、この制御機構は肺高血圧症の承認治療薬であるホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬の反応性を左右する重要な修飾因子であることもわかってきており(Nakamura T. et al, Circ Heart Fail. 2018)、臨床での治療薬選択に影響が必至である。本研究は、既報に基づき、局在化シグナルの機構解明とcGMPシグナルの層別化に焦点をあて、心不全治療におけるPKG1αの標的有用性の確立と治療応用を目指す研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PKG1αは心筋細胞の細胞質内に発現し、エンドセリン1や圧負荷の外的刺激により細胞膜に一過性に移行することが報告されている。我々は、この細胞内局在化へのレドックス制御機構の関与を検討するため、ヒトの野生型PKG1αおよびC42をセリンに置換したレドックス非感受性のPKG1αC42Sのコンストラクトを作製。HEK細胞に導入し、免疫組織学的ならび細胞分画抽出法により細胞内局在を評価した。ジスルフィド二量体の酸化型PKG1αは細胞質で安定して検出できる一方、膜分画に存在するPKG1αは還元体であることがわかった。また、この局在様式は選択的PKG1α阻害薬の添加により変わらないため、活性レベルに依らないC42依存性の機構であることが示唆された。そこで、C42酸化による疎水性変化について、FLAGやGST、His、MBPなどのタグをそれぞれ融合したコンストラクトを作製して検討した。しかし、タグの種類によってもPKG1αの可溶性に差が生じることがわかった。C42を介す疎水性の再現実験を遂行するにあたり影響を無視できないと考え、この結果を考慮し、パルミトイル化によるタンパク質の疎水性変化についてはヒトのPKG1αコンストラクトだけでなく単離マウス心筋細胞も用いて検討を進めている。 cGMP/PKGシグナルの層別化が及ぼす影響として、PKG基質の機能性変化について検討した。中でも、ラット心筋細胞を用いたリン酸化プロテオーム解析でチュベリン(TSC2)上に新たに同定したPKGリン酸化部位が、TSC2を正に制御することを明らかにし、新規シグナル経路(PKG/TSC2/mTOC1)による病的心肥大の抑制機構を報告した(Ranek MJ., Nakamura T. et al, Nature.2019)。引き続き、C42レドックスによるTSC2リン酸化と抗肥大作用への影響について検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、主要目的である局在化シグナルの解析とcGMPシグナルの層別化解析について並行で進めた。前者については、タグの種類でPKG1αの可溶性に影響が生じることがわかり、この結果を考慮し、局在化シグナルの再現性確認を遂行するにあたり研究計画の見直しを図る必要があった。パルミトイル化によるタンパク質の疎水性変化の実験については、研究計画の一部変更に伴い期間を延長することにし、単離マウス心筋細胞およびヒトのPKG1αコンストラクトを用いて再現実験を重ねる方針としている。後者のPKG基質の機能性変化については、当初の研究計画をすでに完了し、C42を介すレドックス制御が肺高血圧症の承認治療薬であるホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬の反応性を修飾する因子であること(Nakamura T. et al, Circ Heart Fail. 2018)、またTSC2上に同定したPKGリン酸化部位を介す新規シグナル経路(PKG/TSC2/mTOC1)と病的心肥大における生理的意義を明らかにし、報告した(Ranek MJ., Nakamura T. et al, Nature.2019)。さらにこの研究成果を発展させ、C42レドックスによるTSC2リン酸化と抗肥大作用の検討を継続している。
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次年度使用額が生じた理由 |
PKG1αの局在化シグナルを解析するにあたり、C42を介す構造変化以外に、タグの種類も標的タンパク質の可溶性に影響を及ぼすことがわかった。この結果を踏まえ、局在化の再現性実験に関して研究手法の見直しを図る必要が生じた。これに伴い、局在化シグナルの解析の中でパルミトイル化によるタンパク質の疎水性変化については、当初の研究手法を一部変更し、ヒトのPKG1αコンストラクトだけでなく単離マウス心筋細胞などの代替的な手法も取り入れて遂行する方針とし、期間延長を申請した。生じた次年度使用額は研究計画を完遂するために使用し、課題項目をすべて終了する見込みである。
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