細胞内サイクリックGMP(cGMP)とそのエフェクターのプロテインキナーゼ(PKG)活性化は、心不全治療の標的として期待されている。心血管組織に内在するアイソザイムPKG1αは、cGMPの結合で活性化するホモ二量体のリン酸化酵素である。しかし、二量体ドメイン近傍に位置するシステイン(C42)が特異的に酸化されると、隣接するサブユニット間にジスルフィド架橋(PKG1αジスルフィド二量体)を形成し、cGMP非依存性の機能調節を受けることがわかってきた。心筋組織におけるこの代替的調節機構の意義は不明だったが、研究申請者はヒトやマウス、犬の不全心において、PKG1αのジスルフィド二量体が増加することを初めて報告し、PKG活性化による本来の抗肥大作用がC42酸化により減弱する新たな制御機構を明らかにした(J Clin Invest. 2015)。本研究では、PKGの細胞内局在化と基質相互作用におけるレドックス調節機構の解析を進める中で、肺高血圧治療薬であるホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬の反応性が、C42レドックスによるPDE5リン酸化を介し制御されることを明らかにした(Circ Heart Fail. 2018)。また、ジスルフィド酸化型がPKG1αの疎水性変化に深く関わっていること、さらにチュベリン(TSC2)上に同定したPKGリン酸化部位がTSC2を正に制御し、病的心肥大を抑制する新規シグナル経路(PKG/TSC2/mTOC1)を報告した(Nature.2019)。またTSC2の同リン酸化部位が、特異的なC42酸化で抑制されるレドックス依存性のmTORC1シグナルを明らかにした(Circ Res 2020)。PKGの細胞内局在化とcGMPシグナルの層別化に焦点をあてた本研究の遂行により、心不全治療におけるPKG1αの標的有用性と治療応用の可能性を数多く示すことができた。
|