研究課題/領域番号 |
17K09584
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
丹野 雅也 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (00398322)
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研究分担者 |
矢野 俊之 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40444913)
三浦 哲嗣 札幌医科大学, 医学部, 教授 (90199951)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖尿病性心筋症 / 心不全 |
研究実績の概要 |
糖尿病性心筋症は、発症早期には左室拡張機能障害を呈し、左室収縮能の維持された心不全(HFpEF)の主要な原因の一つである。糖尿病患者の急激な増加とともに本症も増加の一途を辿るが、現時点では特異的な治療法は無い。我々は、2型糖尿病モデルラットを用い、AMPデアミナーゼ活性亢進により惹起されるATPレベルの低下が糖尿病性心筋症の拡張能機能障害に寄与することを見出した。本研究では2型糖尿病におけるAMPデアミナーゼ活性亢進の機序を検討する。 蛋白発現、細胞内局在、アロステリック調節、翻訳後修飾の観点から分子機序を解明し、その制御を糖尿病性心筋症治療に結びつけることを目標とする。 肥満2型糖尿病モデルラットであるOLETFを用い、左室内圧-容積曲線を解析したところ、25-30週齢の時点では左室内圧-容積曲線を用いた解析により、左室収縮能は維持されているが、後負荷増加により顕在化する左室拡張障害が存在することが示された。次にエネルギー産生・代謝障害の関与について左室心筋を用いたメタボローム解析により検討した。 アデノシン、ATPおよびアデニンヌクレオチドプール(AMP+ADP+ATP)のレベルが低下しIMPが増加していた。この変化はOLETFで観察されたAMPデアミナーゼ(AMPD)の活性亢進によるものと考えられた。ATPレベルはTauおよびLVEDPいずれとも良好な負の相関を示したため、AMPD活性上昇に起因するATPレベルの低下は、選択的に拡張機能障害を惹起する可能性がある。これらの成績から、糖尿病心筋で観察されるAMPD活性亢進が糖尿病性心筋症の治療標的となる可能性が考えられ、その活性調節機構の解析を開始した。これまでの検討により、2型糖尿病心筋で観察されるmicro RNAの発現変化によるAMPD3遺伝子発現の抑制の関与を示すデータが得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AMPDの活性調整に関与する因子として、microRNA array解析を行い、OLETFで発現レベルが低下 (<50%) するmicroRNAを21個同定した。今後、miRNAのAMPD3蛋白発現への影響を検討する予定であるが、microRNA以外の因子はこれまでの検討により、その寄与の可能性が除外されており、今後の研究の進行の方向性がついているため。すなわち、(1) アロステリック調節による活性制御の検討では、抗AMPD3抗体による免疫沈降物を用いた二次元電気泳動法により2 型糖尿病でAMPD3と相互作用が増加する蛋白をTOF/MSを用いて網羅的に解析し、いくつかの結合蛋白を同定したが、その結合が糖尿病で増加するものは観察されず、蛋白との相互作用の修飾がAMPD3活性や細胞内局在に影響を及ぼす可能性は否定的であった。(2) 翻訳後修飾によるAMPD3活性への影響の検討では、AMPD活性に影響を及ぼすことが報告されている複数のリン酸化部位のリン酸化レベルの変化も観察されなかった。(3) 蛋白発現レベルの調整に関してもユビキチン-プロテアソーム系によるAMPD3蛋白分解は、糖尿病でむしろ亢進していること、mRNAの発現に関しては糖尿病と非糖尿病で差異が観察されないことを確認している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、AMPD3を標的とした介入を糖尿病性心筋症の治療に応用するために、以下の検討を計画している。 (1) AMPD3の発現亢進に寄与するmiRNA (miR-X) が同定されれば、まず単離心筋細胞でmiR-X inihibitor, miR-X mimicをトランスフェクションし、AMPD3の蛋白発現レベルが修飾されるかを確認する。さらに、in vivoでのmiR-X mimicの導入がOLETFの拡張機能障害を改善するかを圧-容積曲線を用いた解析を行い検討する。 (2) AMPD3の細胞内局在の検討: SERCA2aによる細胞質Ca2+の小胞体 (SR) へのATP依存性の取込みが能動的左室拡張の主要な機序であることに着目し、SR分画のAMPD3レベルを定量する。AMPD3が糖尿病合併心筋でSR分画において増加していれば、糖尿病性心筋症による拡張機能障害の改善をもたらすための治療標的である可能性が高い。AMPD3は重要な生理機能も有するため、非選択的な抑制は有害事象を惹起し得るが、SR近傍のAMPD3活性を選択的に抑制できれば左室拡張機能障害のみを特異的に改善することができる可能性がある。そこで、SR分画局在促進/維持に寄与する分子機序を検討する。免疫沈降法、二次元電気泳動、TOF/MSによる解析でAMPD3との結合蛋白がSR分画に同定されれば、その結合部位の相補ペプチドを作成する。相補ペプチドを導入してAMPD3のSR分画への移行を抑制することにより拡張機能障害が改善されるかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の現在進行しているプロジェクトと抗体や消耗品を共有することが可能であった。さらに、一部プロトコールが重複し、先行して進行している他のプロジェクトでおこなった、予備実験結果を参照することができたため、実験条件を設定するための予備実験量が当初の予測よりも少なく済んだ。したがって、実験自体は当初の予定どおり進行し、データが蓄積しつつあるにも関わらず、今年度の予算に対して余剰額が生じ、次年度使用額が生じた。しかし、平成30年度以降は、他のプロジェクトと実験内容に相違が生じるため、消耗品の共有も限定され、当初の予定通りの出費が予想される。各種試薬、抗体に加えて、11月に予定されているアメリカ心臓協会学術集会での発表の際の旅費として、一部の助成金を使用したい。
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