目的のすべてのマウスで、遺伝子改変ES細胞の作製、キメラマウスの作製を経て、ようやく昨年度にすべてのラインでgerm-line transmissionを得ることに成功した。 上記で作製したマウスと、心筋細胞特異的に発現するトロポニンT-Creマウスとを掛け合わせることにより、心筋細胞特異的に目的の遺伝子を過剰発現させたマウスを作製、心エコーでその後の経過を追った。 過剰発現させた目的遺伝子はヘテロダイマーを形成し、同一のシグナル経路を活性化すると考えられており、実際、それらの遺伝子欠損マウスはそれぞれ全く同じ心臓の表現型により、胎生致死となることが知られている。ところが、申請者が作製した過剰発現マウスでは、一方の目的遺伝子の過剰発現では心室壁が厚くなり肥大型心筋症と同様の表現型を呈し、もう一方の目的遺伝子の過剰発現では心室壁が菲薄化し、心機能が極端に低下し拡張型心筋症を呈した。このように当初の予想とは異なり、相対する表現型が観察された。 これらのデータは胎仔期から発現するトロポニンT-Creマウスとの掛け合わせにより得られた結果であるため、発生プロセスの異常とも考えられた。そのためトロポニンT-CreERT2マウスと掛け合わせて、6週齢の成熟マウスで目的の遺伝子を各々過剰発現させた。その結果、同様に相対する表現型を呈したため、成熟期の心筋細胞でも各々、異なる機能をもつことが判明した。現在、RNA-seq、LC-MSなどを用いた解析により、それぞれの標的遺伝子の同定を試みている。
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