今までの研究成果により、脂肪組織中の脂肪幹細胞は、脂肪細胞分化の過程で一部が炎症を惹起するような性質を持つ細胞に変化し、これらの細胞が周辺に単球を呼び寄せることで一方では組織の慢性炎症を引き起こし、他方では血管新生を促している可能性を見出した。本研究において、脂肪幹細胞は一部が炎症惹起細胞へ変化するにもかかわらず残りの細胞は脂肪細部へと分化しており、その運命付けをする因子を探索した。その結果、ピオグリタゾンの添加により、in vitroで脂肪幹細胞は効率に脂肪細胞へと分化する一方で、パルミチンミ酸の刺激により高率に炎症惹起細胞へと変化することが明らかとされ、PPARのシグナルがこれらの細胞分化の運命付けに関与していることが示唆された。 さらに興味深いことに、皮下脂肪の脂肪幹細胞はin vitroの環境下で高率に脂肪細胞分化をするが、内臓脂肪の脂肪幹細胞の脂肪細胞分化はこれに比べて圧倒的に低い。およそ80-90パーセントに対し20-30パーセントといったところであることが分かった。皮下脂肪と内臓脂肪の脂肪幹細胞をゲノムレベルで解析したところ、PPARγをはじめとする脂肪細胞分化マシナリーの発現量が全く異なっており、さらにH3K4me3でのChip seqの結果は、各々の幹細胞がヒストンレベルですでに異なった性質を持っていることを明らかとした。我々の今回の検討は、内臓脂肪における幹細胞が、すでに炎症惹起しやすい形質を獲得しているものであり、そこに環境要因としてのパルミチン酸などの刺激が加わることによって脂肪組織の慢性炎症が惹起されるという新しいメカニズムを明らかにしてきたと考えている。
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