研究課題/領域番号 |
17K09593
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
宮田 昌明 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (00347113)
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研究分担者 |
池田 義之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (00573023)
赤崎 雄一 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 助教 (00631920)
大石 充 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (50335345)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大動脈瘤 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
CD-11b-diphtheria toxin receptor (CD11b-DTR)トランスジェニックマウスにdiphtheria toxin(DT)を投与することにより全マクロファージを死滅させることが可能である。そこで、このマウスを用い、porcine pancreatic elastase(PPE)処理による大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における全マクロファージの役割の検討を行った。CD11b-DTRトランスジェニックマウスにPPE処置の3日前からg体重あたり10ngのdiphtheria toxin(DT)を1日おきに投与し、PPE処置後3日目までの投与により大動脈瘤の発症、13日目までの投与により大動脈瘤の進展、PPE処置の4日目から13日目までの投与により大動脈瘤の退縮に対する全マクロファージ抑制の効果を検討した。コントロールにはC57BL6マウスを用い、PPE処置を行い、PPE処置の3日前からg体重あたり10ngのDTを13日目まで投与した。PPE処置後0、3、7、14日目に超音波にて腹部大動脈瘤径を計測し、全マクロファージを欠失させることにより、大動脈瘤の発症、進展、退縮のいずれにおいても大動脈径がコントロール群と比較して有意に縮小しており、マクロファージが大動脈瘤の発症、進展、退縮のいずれの過程においても関与していることを明らかにした。 さらに、大動脈を摘出して組織解析を行い、エバンスグリーン染色でエラスチン、CD31モノクローナル抗体で血管新生、CD68モノクローナル抗体でマクロファージを評価した。その結果、大動脈瘤の発症、退縮において全マクロファージ欠失群はコントロール群と比較してエラスチンの変性が少なく、血管新生も抑制、マクロファージの数も少ないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD11b-DTRトランスジェニックマウスにDTを投与する実験系で大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における全マクロファージの役割に関する実験を行い、成果をあげている。現在、組織片をelastaseとcollagenaseで処理し血球を抽出しフローサイトメトリーでCD45を発現する白血球成分と活性化マクロファージのマーカーである葉酸レセプターβ(FRβ)を発現する活性化マクロファージ成分の比率を解析している。また、動脈硬化のモデルマウスであるapoE欠損マウスとCD11b-DTRトランスジェニックマウスを交配して、動脈硬化における全マクロファージ欠失の関与を調べている。さらに、この交配したマウスを用い、FRβ抗体に緑膿菌毒素を結合させたリコンビナントイムノトキシン(FRβイムノトキシン)を投与して、大動脈瘤の発生と生存率を観察しており、全マクロファージ欠失時の活性化マクロファージの関与を検討している。以上のように、スタンフォード大学のDalman教授とXu博士と共同して基礎研究を遂行しており、計画通りに順調に動物実験は進行している。 大動脈瘤手術患者における活性化マクロファージの役割の検討に関しては、FRβモノクローナル抗体を作成し、大動脈瘤患者の大動脈瘤における免疫化学組織染色をおこない、さらに、血中可溶性FRβ濃度を測定しており、これも計画通りに順調に進行している。 また、Webによる鹿児島県大動脈瘤患者レジストリーに関しては、調査項目など確定させ、Web登録のための独自のサーバーを購入し、Webによるレジストリーシステムを構築した。現在、15例の登録があり、これも順調に研究が進んでいるが、登録数が予測よりも少ないため、登録施設を増やして対応している。
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今後の研究の推進方策 |
大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における全マクロファージの役割の検討に関しては、免疫組織化学染色などの実験データの解析を進める。 今年度は、大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における活性化マクロファージの役割に関する動物実験を進める。10~12週齢のオスのアポ蛋白E欠損マウスの腎動脈以下の腹部大動脈を一時的に結紮して1.5単位/mlのPPEを30μl注入し、5分後に結紮を解除して大動脈瘤モデルを作成する。活性化マクロファージを抑制するためにg体重あたり100ngのFRβイムノトキシンをPPE処置の1日後から2日おきに投与し、PPE処置後3日目までは大動脈瘤の発症、13日目までは大動脈瘤の進展に対する効果を検討できる。さらに、PPE処置の4日目から13日目までFRβイムノトキシンを投与し、FRβイムノトキシンによる活性化マクロファージの抑制により大動脈瘤を退縮できるか検討する。コントロールはC57BL6マウスにPPE処置を行い、PPE処置の1日後からg体重あたり100ngのFRβイムノトキシンを13日目まで投与する。トキシンのみを投与する対照群も作成する。超音波による経時的大動脈瘤径の計測と14日目の摘出大動脈瘤の組織解析を行う。 大動脈瘤手術患者における活性化マクロファージの役割の検討に関しては、ELISAシステムを構築して、血中可溶性FRβ濃度を測定し、さらに、大動脈瘤手術患者の摘出大動脈において、このFRβモノクロールにより免疫組織染色を行い、FRβを発現する活性化マクロファージの局在の検討をさらに進める予定である。 また、Webによる鹿児島県大動脈瘤患者レジストリーに関しては、現在、15例の登録があるが、さらに登録数を増やして、その患者群の血清可溶性FRβや炎症マーカーを測定し、大動脈瘤進展、退縮あるいは心血管イベントや死亡との関連を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度と本年度の研究に関しては、スタンフォード大学との共同研究が多く、当方の支払いが少なく済んだが、今後は鹿児島大学で行う実験が多くなるため、翌年度の助成金とあわせて以下のように使用する計画である。 本研究には抗FRβモノクローナル抗体を多量に使用するために、マウス抗FRβモノクローナル抗体作成に必要な培養関連試薬、ヌードマウスの購入、蛋白精製に必要な試薬を購入する。さらに、抗FRβモノクローナル抗体に緑膿菌毒素を結合させたFRβイムノトキシンの作成に関する試薬、マウスや患者の大動脈瘤の組織を用いた免疫組織化学染色に用いる抗体や試薬、ならびに、フローサイトメトリー解析に必要な抗体や試薬、大動脈瘤患者の可溶性FRβ測定に必要なELISA作成キットとそれに使用する試薬を購入する。同時に測定する高感度CRP、IL-6などの測定に必要なキットや試薬も購入する。 さらに、最終年度になるため論文作成や成果の学会発表の旅費も必要となる。
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