研究課題
我々は、C57BL/6Jマウスの腎動脈以下の腹部大動脈を一時的に結紮して1.5単位/mlのporcine pancreatic elastase(PPE)を30μl注入し、5分後に結紮を解除して大動脈瘤モデルを作成した。このマウスモデルの大動脈瘤部位にVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)-AのmRNAと蛋白が発現していることを見出した。そこで、可溶性VEGF受容体2(VEGFR2)の結合部位をアデノウイルス(Ad-VEGFR-2)で発現させVEGF-Aの作用を抑制したところ大動脈瘤の形成は長期にわたり抑制され、中膜の線維成分溶解、平滑筋細胞の喪失、血管壁の血管新生のいずれも抑制されていた。次に、この大動脈瘤モデルマスにVEGF-Aのモノクローナル中和抗体を投与してVEGF-Aの作用を抑制したところ、初期の大動脈瘤の形成は抑制されたものの長期には大動脈瘤の形成を抑制することはできなかった。さらに、チロシンキナーゼ活性阻害剤でVEGFR2を標的として抑制するsunitinibを投与したところ、大動脈瘤の形成は長期にわたり抑制され、MMP-2、MMP-9の発現も抑制された。また、培養実験にてVEGF-Aの添加による単球や好中球の走化をsunitinibは抑制し、さらにの培養実験にて、sunitinibはVEGF-Aの添加によるマクロファージと血管平滑筋培養細胞におけるMMP-2、MMP-9とVEGF-AのmRNA発現を抑制した。以上の結果から、VEGF-Aとその受容体は大動脈瘤形成に関与し、sunitinibによるVEGFR2を標的としたチロシンキナーゼ阻害は、大動脈瘤の新規治療法として期待される。このことをArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology雑誌に論文報告した。
3: やや遅れている
研究代表者が2018年4月に鹿児島大学から鹿児島市立病院に異動になり、診療業務に時間を割かれ、本研究課題の遂行に遅延が出ている。上記概要に示したようにスタンフォード大学との共同研究により研究は進んでおり、論文も発表されているが、残りの研究課題に関して学会発表や論文投稿があるため、研究期間の延長を申請した。なお、研究代表者は2020年4月から再度、鹿児島大学医学部に異動したため、研究期間延長後の研究遂行に問題はない。動物実験による基礎研究においては、CD-11b-diphtheria toxin receptor (CD11b-DTR)トランスジェニックマウスにdiphtheria toxin(DT)を投与する実験系で大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における全マクロファージの役割に関する実験を行い、成果を得つつある。大動脈瘤手術患者における活性化マクロファージの役割の検討に関しては、FRβモノクローナル抗体を作成し、大動脈瘤患者の大動脈瘤における免疫化学組織染色をおこない、さらに、血中可溶性FRβ濃度を測定している。また、Webによる鹿児島県大動脈瘤患者レジストリーに関しては、調査項目など確定させ、Webによるレジストリーシステムを構築した。
動物実験による基礎研究においては、CD-11b-diphtheria toxin receptor (CD11b-DTR)トランスジェニックマウスにdiphtheria toxin(DT)を投与する実験系で大動脈瘤モデルマウスの発症、進展、退縮における全マクロファージの役割に関する実験を行い、大動脈瘤の組織片をelastaseとcollagenaseで処理し血球を抽出しフローサイトメトリーでCD45を発現する白血球成分と活性化マクロファージのマーカーである葉酸レセプターβ(FRβ)を発現する活性化マクロファージ成分の比率を解析する。また、動脈硬化のモデルマウスであるapoE欠損マウスとCD11b-DTRトランスジェニックマウスを交配して、動脈硬化における全マクロファージ欠失の関与を調べる。さらに、この交配したマウスを用い、FRβ抗体に緑膿菌毒素を結合させたリコンビナントイムノトキシン(FRβイムノトキシン)を投与して、大動脈瘤の発生と生存率を観察しており、全マクロファージ欠失時の活性化マクロファージの関与を検討している。これらは、スタンフォード大学のDalman教授とXu博士と共同して基礎研究を遂行する。大動脈瘤手術患者における活性化マクロファージの役割の検討に関しては、ELISAシステムを構築して、血中可溶性FRβ濃度を測定し、さらに、大動脈瘤手術患者の摘出大動脈において、このFRβモノクロールにより免疫組織染色を行い、FRβを発現する活性化マクロファージの局在の検討をさらに進める。また、Webによる鹿児島県大動脈瘤患者レジストリーに関しては、現在、15例の登録があるが、登録数が予測よりも少ないため、登録施設を増やして対応してさらに登録数を増やして、その患者群の血清可溶性FRβや炎症マーカーを測定し、大動脈瘤進展、退縮あるいは心血管イベントや死亡との関連を検討する。
研究代表者が2018年4月に鹿児島大学から鹿児島市立病院に異動になり、診療業務に時間を割かれ、本研究課題の遂行に遅延が出ている。なお、研究代表者は2020年4月から再度、鹿児島大学医学部に異動したため、研究期間延長後の研究遂行に問題はない。本研究には抗FRβモノクローナル抗体を使用するために、マウス抗FRβモノクローナル抗体作成に必要な培養関連試薬、ヌードマウスの購入、蛋白精製に必要な試薬を購入する。さらに、抗FRβモノクローナル抗体に緑膿菌毒素を結合させたFRβイムノトキシンの作成に関する試薬、マウスや患者の大動脈瘤の組織を用いた免疫組織化学染色に用いる抗体や試薬、ならびに、フローサイトメトリー解析に必要な抗体や試薬、大動脈瘤患者の可溶性FRβ測定に必要なELISA作成キットとそれに使用する試薬を購入する。同時に測定する高感度CRP、IL-6などの測定に必要なキットや試薬も購入する。さらに、論文作成や成果の学会発表の旅費も必要となる。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Arterioscler Thromb Vasc Biol
巻: 39 ページ: 1652-1666
10.1161/ATVBAHA.119.312497
Neurochem Int. 2019;125:99-110
巻: 125 ページ: 99-110
10.1016/j.neuint.2019.02.010
Clin Appl Thromb Hemost
巻: 25 ページ: 107602961985157
10.1177/1076029619851570
Circ J
巻: 83 ページ: 1278-1285
10.1253/circj.CJ-18-1155
Heart Vessels
巻: 34 ページ: 1509-1518
10.1007/s00380-019-01373-6