研究課題
本邦では一般人口の2%が8週間以上の慢性咳嗽を有する.慢性咳嗽の診断は,薬物療法の効果に依存する治療的診断が主流である.治療的診断の問題点として,①偽薬効果および自然軽快による偽陽性,②治療抵抗性,不十分な治療および複数疾患の併発による偽陰性の問題がある.咳嗽診療に重点をおいた施設では,治療的診断以外に,各種生理機能検査を用いて病態的診断を試みているが,そのような生理機能検査を実施できる医療機関は限られている.どこの医療機関でも,非侵襲的に,繰り返し採取できる検体を使用した慢性咳嗽の診断法の開発が必要である.安全に簡便に採取できる呼気凝縮液(exhaled breath condensate:EBC)中の脂質mediatorを高感度に解析することにより慢性咳嗽の診断法の確立,病態評価および咳嗽難治化因子の解明を目指した.しかしながら,呼気凝縮液中の脂質mediatorの再現性の良い測定ができなかった.検体採取に要する時間,検体採取時間,検体採取医療機関を変更し,繰り返し採取し測定したが,残念ながら再現性良く脂質mediatorが測定できなかった.このため,血液および尿中の脂質mediatorを測定することに変更した.同検体中のmediatorが再現性良く測定できたため,慢性咳嗽患者と健常者の検体を収集し,解析した.数種類の脂質mediatorが測定でき,慢性咳嗽の疾患毎に一定の傾向を認めた.新型コロナウィルスの流行により,咳嗽にて当院および協力医療機関を受診する患者が激減し,研究開始当初に予定していた患者数に大きく及ばなかった.症例数が少なく,統計学的に十分な評価ができなかった.