研究課題
本研究では、難治性肺癌の新たな治療戦略として、癌幹細胞や薬剤耐性との関連が報告されたヒストンH3リジン4 (H3K4) の脱メチル化酵素JARID1a/b等のヒストン修飾酵素の阻害によって、非小細胞肺癌細胞(NSCLC)における抗癌薬耐性化を克服することを目標とし、その基盤となる研究を行った。昨年度の研究で、EGFR 変異肺腺癌細胞PC9のEGFR-TKIゲフィチニブ高濃度曝露で出現する薬剤耐性細胞(drug-tolerant persisters; DTPs)を回収し、JARID1a/bの発現上昇とH3K4脱メチル化の亢進を示した。JARID1阻害薬PBITの低濃度の曝露によって、DTPsのH3K4脱メチル化は打ち消され、DTPsの増殖も阻害された。本年度は、分子標的薬を高感受性細胞に曝露した際に、種々の増殖因子やサイトカイン等の分泌シグナルネットワーク(セクレトーム)が形成され、抗癌薬耐性細胞の増殖能を亢進し、この現象が転写因子FRA1の抑制によって制御されるという報告に着目した(Obenauf et al. Nature 2015)。ゲフィチニブを高濃度曝露したPC9から回収した培養上清(conditioned medium; CM)が、第一世代EGFR-TKI耐性変異陽性NSCLC細胞H1975、EGFR野生型NSCLC細胞(H460, A549等)、およびPC9 DTPsの増殖を促進することを確認した。PC9細胞内ではFRA1の発現が抑制され、FRA1プロモーター領域のヒストンH3K4の脱メチル化と関連していた。PBITはこれらの効果を打ち消し、耐性細胞の増殖を抑制した。肺癌における抗癌薬耐性化にセクレトームの変化が関係し、JARID1阻害によるヒストン修飾がセクレトームの変化を解除し、抗癌薬耐性化を克服する新たな治療戦略となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の研究実施計画の内容の大部分が実施され、概ね予期された結果が得られた。
平成31年度は、セクレトーム中のIGF1, HGF等の主要増殖因子の変化を検討する。さらにプロテオーム解析で網羅的な検討を行う。分泌因子が特定できれば、各種がん細胞に添加したときの効果を検討し、中和抗体や下流シグナルの阻害薬を用いた機能阻害実験も行う。特定された分泌因子がFRA1で制御されているか分泌因子をコードする遺伝子のプロモーター解析で検討する。さらに、他のヒストン修飾酵素阻害薬であるEZH2阻害薬やHDAC阻害薬との併用によって上記の抗腫瘍効果が増強するか検討する。
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